第9話 第三次直上決戦
3月16日 午前10時54分 プラボカ北西湿地地帯
「撤退だ、急げ!」
「ま、待ってくれ!ぁあっ!」
撤退がバロン全軍に通達されると、バロン兵らは一目散に逃げ出した。それもそのハズ、豪雨で足を取られ、体力を奪われたバロン兵は迫る敵の餌食になり、次々と倒れていったのだ。どこの部隊も数を減し、全滅した部隊も少なくない。バラバラに逃げるバロン兵の中には、逃げ遅れ討ち取られる者が後を絶たなかった。
先述したように、雨をすった湿地に足を取られ、個々が孤立した様な状況にある。それをウォルス兵らは一片の同情もなく、斬り捨て、突き殺し、叩き潰す。もとよりバロンは侵略者なのだからそれはある意味仕方がない。兵一個人に責任や怒りがなくても、ウォルス兵が彼らを倒して進軍してゆく。
後方で指揮を執っていたウォルス軍総大将、ドーラ将軍も次第に前線へとのぼり、兵に追撃を命ずる。いよいよバロン軍の本格的な撤退と戦線の崩壊が始まった。
「蹴散らせ!」
ドーラの怒声が響くと、彼の周囲の兵が一斉に剣を抜き放ち、また一斉に背を丸出しにして逃げるバロン兵に攻撃を浴びせた。彼らは精鋭揃いの赤魔道騎士団のなかでも群を抜いた強者共だ。それは普通の赤魔道騎士がグレートソードを装備しているのに対し、その遥か上を行くエンハンスソードを装備している事からも分かる。
これまで後方でドーラの護衛についていた彼らは、闘争心をむき出しにして敵に迫った。総勢100人前後の騎士らは前方に味方が居ないのを確認すると、50人がその場で魔法の詠唱にかかり他が更に二分し、左右に分かれ猛進。
「な、なんだ?あいつら!」
「知るか、ほっとけ!!」
「急がないと本隊とはぐれちまうぞ!」
新手の騎士に気づきながらも、バロン兵は逃げる。彼らはこのとき、分散しているべきだった。
50人が詠唱を終え、剣の先に赤い光を収束させる。それは更に大きくなり、発動寸前に剣を包む光となり、そして・・・。
「ファイラ!!!!」
突如光は業火となり、空中をなめる様に進む。果たしてその地獄の様な光景を、バロン兵らは見ていただろうか?彼らにファイラが直撃したかと思うと、その瞬間火柱が天にも届く勢いで伸び、数十人のバロン兵を武具ごと見事に焼き払っていたのだから。
「うわあ!なんだ!」
「何事だぁ!?」
「あああぁあっ!やっ、焼ける!焼ける!!助けてくれぇ!!」
地面に着弾したファイラは、直撃を被った兵だけでなく、周囲の兵に数百度の熱を秘める炎をかぶせた。その上、勢い余ったファイラは蛇行する様に今度は地上をなめる様に進み、先を行く敵を足から焼き払った。
混乱を極めたバロン兵らに更なる敵が迫る。左右から挟撃せんとする騎士達だ。黒と赤のツートンカラーの装備の彼らは、
追われる方にしてみれば、所構わず紅の炎と血をもたらす、悪意のこもった漆黒の竜に見えたに違いない。事実その様な光景が広がった。少し前まで輝く白銀のエンハンスソードが、すぐに血でギラリと妖しい光を抱く様になる。
「控えろ、侵略者の豚共が!」
「俺たちが魔法と、このエンハンスソードで、貴様らを料理してやる!!」
「どうした!水のクリスタル欲しいがためにここまで来たんじゃないのか!?」
「そろいもそろって腰抜けばかりだな!」
騎士用の長剣に類するエンハンスソードが、雑兵の剣をたたき落とし敵の胴に鋭く食い込む。打ち合いながらも魔法を巧みに操り、敵を翻弄。赤魔道騎士の圧勝である。実力、装備、士気。どれをとっても全く質が違う。赤魔道騎士は、騎士と言うより闘士という呼び名がおあつらえむきだろう。
クラウドとカインの一騎打ちは、未だ続いていた。既に周りにバロン軍の姿はない。だがカインは、一歩も退かない。クラウドにも退く気は毛頭ない。猛進するウォルス兵らも、彼らの間に割って入ってカインの首をいただく事はない。攻撃を繰り出しながらも、クラウドは冷静な口調でカインに問う。
「どうした、逃げなくて良いのか?」
「お前がそれを許さないだろう?」
「その通りだな。」
カインはミスリルサーベルを上下左右に振り、鋭い突きを見舞う。クラウドはこれを横に跳ねかわし、バスタードソードを横に一閃。カインも高くジャンプし、剣戟をかわしながら、引き際を感じ始めた。
(ここは退くべきか?)
カインもさすがにこれ以上戦えば討ち取られるか、捕虜になるのは目に見えている。が、ここでカインはあえてクラウドに接近するそぶりを見せる。
クラウドは身構えた。クラウドの攻撃が届く手前、カインはストックブレイクを地面に向け、放つ。
(しまった・・・。)
クラウドの視界を、カインが吹き上がらせた土が覆った。カインはその間に高く跳躍。戦場を後にした。
「また逃げた・・・。」
クラウドはただ先を見つめるだけだった。
大局は既に決し、ウォルス軍が戦場に取り残された敵を掃討し、また虜囚としている。更に追撃するウォルス軍も少なからずおり、バロン軍の撤退を許さなかった。追撃に当たっている部隊の中にはシャドウの姿が認められる。
彼はもとより傭兵部隊には編入されず、単独行動を取っていた。彼が今追っているのは、敵の総司令であろうとされるセシル率いる部隊だった。撤退する友軍を逃がすべく、後方に控えていた部隊をまとめウォルス軍の行く手を阻んでいるのだった。シャドウの目標はセシルだ。セシルを倒せば敵の士気は落ちるところまで落ちるし、指揮系統の麻痺も見込める。加えてセシルはバロンの名だたる将官だ。倒せば報賞金が出るのは間違いないところだ。
インターセプターと共に戦地を駆ける。バロン兵の赤い装備のなか、黒ずくめの一団を見付けるのは容易であった。
シャドウは音も立てず接近しつつ、左手に手裏剣を持つ。一人の暗黒騎士が気づいたその瞬間に、手裏剣を放った。
「くっ!!」
辛くも手裏剣を裁いたその騎士ではあったが、その間にシャドウは接近し、右手の小太刀を一閃。その一撃の何とも鋭利で冷徹な事か。その騎士は胴から首が綺麗に離れ、力無く地面に伏せる。セシルは一瞬、思考を巡らせるとその僅か後には指示を下していた。
「ヤツを包囲しろ!」
「はっ!」
暗黒騎士らは、その装備からは想像もつかぬ速さで動いた。流石のシャドウも包囲される・・・ハズだった。その前に彼は小太刀で、迫る一人を貫き、更に迫る他の敵をインターセプターと共に蹴散らせた。屈強なる暗黒騎士が、瞬く間に死の床についていた。
(なんて強さだ!?)
セシルは目を疑うより剣を振るっていた。目前には猛然と襲いかかるシャドウの姿があったからだ。金属の擦れ合う音が幾度となく響き渡り、両者は攻防を続けた。
しかし、シャドウは一撃必殺を旨とする暗殺者だ。いつまでもこのような戦い方をするつもりはなかった。
「なんだと?」
シャドウは鋭く、素早いキックをセシルに見舞っていた。セシルは反射的に盾を構え受け止める。攻撃を防がれたシャドウの取った行動は、誰でも驚愕するものだった。シャドウは盾を足がかりに高く飛び跳ねたのだ。
(しまった!)
セシルは背後をとられ、焦る。シャドウは小太刀を振るい、振り返ったセシルの、暗黒の剣をはじき飛ばした。更に一撃を加え、セシルの左手をしびれさせた。暗黒の盾が地面に落ちる。
「くっ!!」
苦しげに声を上げながらも後ろに退くセシル。だがシャドウは容赦しない。セシルにはもう、迫るシャドウを迎え撃つ術はない。シャドウが、セシルがこれで終わりだと思ったその時だ。
2人の間を割って入る様に、1人の竜騎士がシャドウの前に立ちはだかり、シャドウの突きを鋭い剣戟で弾いていた。
「カイン!」
セシルはその名を呼んだ。
「ここは任せろ!」
言いながらカインはフェンシングの様に剣で円を描き、不規則的な突きで、除々にシャドウを引き離す。
(流石に分が悪いか・・・?)
すらすらと突きを避けながらもシャドウは、引き際を感じ始めていた。一気に後退すると同時に、小太刀を収め両手にありったけの手裏剣を持つと一斉にカインに向け、放った。
「っう!」
シャドウに向かい駆けていたカインはとっさにミスリルサーベルを、さらに左手に鞘を持ち迫り来る手裏剣をたたき落とす。が、防ぎきれなかった一つの手裏剣がミスリルヘルムに直撃した。カインにケガはない。しかしミスリルヘルムは使い物にならなくなった。退いたシャドウに今度は右から剣を持ち直したセシルが、暗黒剣技を浴びせた。
「暗黒剣!!」
巨大な波動が生まれ、弾かれた様な勢いでシャドウに迫る。
「火遁!」
シャドウは火遁の札で暗黒剣から身を守り、吹き上がった暗黒の波動と烈火を尻目に消え去った。
「お互い何とか無事の様だな。」
カインは笑いながら言う。
「ああ、何とかね。カインが助けてくれなければ、どうなっていた事か・・・。」
「しかし、俺たちは生き残ったが、果たしてどれ程の被害が出たか・・・。今回は俺たちの大敗だな。」
「ああ、そうだね・・・。」
未だに雨は降り注ぎ、雷鳴は鳴り響く。その雷雨の轟音をもかき消すような歓声が、ウォルス軍から絶え間なく発せられる。セシルら2人はそれを背に戦場を後にした。セシルは唇をかみしめ、カインは拳を握りしめ。
戻る