第9話 第三次直上決戦

3月16日 午前10時54分 プラボカ北西湿地地帯

 
嵐の如く舞い降りたズーの群衆は、バロン、ウォルス双方に甚大な被害を与え、戦場から過ぎ去った。一時閑散とした前線は、再び両軍がぶつかり合う地獄と化していた。ウォルス軍はこれまでにない戦意を以て、バロン軍はうろたえながらも戦った。
 
同時刻 バロン軍陣地
 
5隻の飛空挺、「赤い翼」から成るバロン軍陣地は、整備、医務、給仕、警備に当たっている者たちのみがいるだった。その中に一人、全身を漆黒の装備でまとった暗黒騎士がいた。

ゴルベーザだ。赤い翼の甲板に立ち、遙か彼方の薄暗い空を見る。気味の悪い色をした、今にも雨を降らしそうな空から突然、ズーが現れた。まさしくそれは、今繰り広げられている会戦に躍り出たあの群衆の一匹だ。そのズーは、両足を使い、人を運んできた。カイエンとの戦いの末、刀で貫かれ、絶命したはずのあのベイガンだ。ズーが一気に甲板の、彼の前に異形を見せる。だが、甲板の兵は無反応。陣地を囲む塹壕の兵も、誰も全く気づかない。肉眼で見える距離にもかかわらず。

ズーも含めて、陣地の兵は皆、一時的ではあるがゴルベーザの術中にいたのだった。

だから、モンスターが現れても、何の反応もない。

「ご苦労。」

ゴルベーザはズーにそう言うと、ズーは弾かれた様に虚空に姿を消した。甲板に降り立ったベイガンは、いつの間にかひざまずき、ゴルベーザの足下にいた。

「フム・・・。回復機能は完成に近づきつつあるな。加えて強化した筋肉と神経も、問題ない様だ。」

「はっ。あなた様にいただいたこの肉体は、誠に優れた力を秘めております。」

ただ一撃、カイエンがベイガンに与えた胸の傷、と言うよりも風穴は、完全に塞がっており、出血も収まっている。ゴルベーザは続ける。

「お前は素晴らしい力を私から授かったとは言え、まだまだそれは不完全だ。時間をかけ、その力を引き出さねばならん。セシルを討つほどのな。」

「はっ!」

既にこの時、ベイガンは人ならざる人だった。だが、彼はまだまだ数段もモンスターとして改良される。ゴルベーザによって。
 
舞台は再び戦場へ戻る。

バロン側は劣勢に立たされつつも、ベイガンに代わってカインが前線部隊の指揮を執る事で、少しずつだが再び統制を見せ始めた。が、一度火のついた敵の戦意は手が付けられず、一度崩壊した指揮系統と士気を挽回するのはこの上なく難しい。その上、敵は態勢を立て直す時間を与えてはくれない。だからカインの元には、悪い知らせしか舞い込んでこない。

「敵の増援を確認!前線の第1大隊が危険です!」

「こちらの増援が来るまでもちこたえろ!」

「とてももちません!!」

「もたせろ!!!ここから、2個小隊600人を増援に向かわせろ。それで何とかもたせろ!」

「はっ!」

前線の逼迫した状況は、前線司令部にも波及していた。司令部の兵を割く事は、前線の劣勢と、後がない事を示している。後方に控えるセシルに援軍を要請したものの、大勢が湿地地帯を行くには大変な時間を要する。カインは味方の善戦を祈るほかなかった。
 
ウォルス軍も決定打が出せず、敵を攻めあぐねていた。援軍を期待できない事実が、バロン軍にのしかかり、意地でも戦い抜こうという心情にさせた。

バッツら4人は、傭兵部隊と共に戦いつつも、姿の見えないカイエンを捜していた。バッツは辺りを見回すが、ここは乱戦が繰り広げられている。特定の人物を捜し出すのは至難の業だ。

不意にバッツの目に飛び込んできたのは一羽のズーの死骸だ。体の随所に鋭い切り傷を負っていた。近づくとそこには見覚えのある人影があった。まさしくそれはバッツらが捜していたカイエンだった。

「カイエンさん!」

大声で名を呼ぶ。すると威勢の良い返答が戻る。

「バッツ殿!すまぬ、心配をかけた!」

「はやくボコに!」

ボコに乗る様促すと、カイエンは素早い動作で鞍に足をかけ、一気に飛び乗る。カイエンが乗るやいなや、ボコは全速力で味方の方へと走る。優勢とは言え、未だ敵は奮戦し、ウォルス軍の前進を許してくれない。時折左右から襲いかかる敵を倒しながら、仲間の元へと走る。

丁度ガラフの姿が確認できた。ガラフは目の前の敵を一掃すると、バッツらの姿を認めた。が、仲間の生存が確認出来た安堵の表情が一瞬でこわばり、次の瞬間2人に向けて最大限の声で叫んだ。

「ふせろ!!!」

言葉に意味を理解するより早く体が動いた。ボコも含めた全員が姿勢を低くした。そのすぐ上をガラフが投げはなったアイアンソードが行き、バッツらを背後から突こうとした竜騎士の胸を貫く。

「ん・・・・?!!」

状況がつかめない竜騎士はそのまま前に崩れ落ちた。竜騎士の姿をあ然とした目で見るバッツ。

「もう少し遅ければ、我らがこうなっていましたな・・・。」

カイエンも少々驚いた様だ。

「いやぁ、お主ら。命拾いしたのう。」

ガラフは竜騎士からアイアンソードを引き抜き、彼の手中のスピアを手に持ち、心底ほっとした様に言った。

「お主らを串刺しにするところじゃったわい。」

「ああ、こっちも何も考えずに従ってて良かったよ。考えてる間に、串刺しになっただろうからな。」

「拙者も同感でござる。」

加えてボコが先の2人の言葉に同意する様に頷いた。
 
その頃の戦況は、起死回生を試みるカインの采配により所により戦況はバロン側に傾いていたが、大局はウォルス側が圧倒的有利である。セシルはカインの要請で増援の兵を差し向けたが、これ以上の被害が出ないうちに撤退すべきではないかという思いがよぎった。そんな中、頭上の暗雲が雨を降らし始めた。雨は瞬く間に小雨から大豪雨と豹変し、雷鳴を伴いはじめた。これが戦況に大いに影響を及ぼすことになる。
 
「まずいな、この雨は・・・。」

カインはいち早く雨が、バロン軍の戦況に追い打ちをかけるものだと気づいた。この一帯に広がる湿地地帯で兵を円滑に動かすのは至難の業だ。司令部からの増援が遅れるのはもちろん、前線の兵の疲弊も免れない。早速カインの元に劣勢の知らせが殺到した。

「大変です!第一大隊が挟撃されました!壊滅的な状況です!」

「右翼部隊突破されました!このままではここが強襲されます!!」

事態はもはや収拾がつかない。

「増援はどうした!?まだ来ないのか!」

「はっ、それがこの豪雨に足を取られて、進軍が妨げられていまして。戦線の崩壊も時間の問題です。」

「くっ・・・。」

カインは唇をかみ、思考を巡らす。その間も雷雨は激しく降り注いだ。

「やむを得ん。全軍に撤退命令を下せ。本格的な戦線崩壊の前に撤退を急がせろ。落伍兵や死傷者がこれ以上出ては、水のクリスタルどころではなくなるからな。」

「はっ!」

「負傷兵の撤退を最優先させろ!傷の浅い者は、重傷者の移動を手伝ってやれ。ポーション類もありったけ使って構わん。替えはいくらでもきく!」

的確な指示を素早く出しつつもカインも辺りの兵と共に脱出の準備に取りかかった。

「よし!俺たちも撤退する。急ぐぞ!」

落伍者が居ないのを確認すると、司令部に向かって脱出しようとしたが・・・。

「そうはいかない。」

「ん?」

カインが振り返ると、落雷を背にクラウドが立ちはだかっていた。腕の傷はポーションを使ったらしく、完治していて、手中のバスタードソードが血まみれの所を見ると、大暴れをした様だ。様子からしてただで通してくれそうにない。

「お前達は先に行け。すぐに後を追う。」

「はっ、お気を付けて!」

部下達は陣地へと走った。クラウドが去る彼らを追わないところを見ると、カインに用がある様だ。

「わざわざここまで来てくれるとはな。嬉しいぞ。さて、これで相手になろう。」

カインは腰の剣を抜きはなった。それは防具と同じくミスリル製だった。だたベイガンの物よりも更に、鋭く長細い。
ミスリルサーベルと言ったところか。

「行くぞ!」

「来い!」

ミスリルサーベルを鋭く突き立て突進するカイン。クラウドもまた、真っ向からカインに挑む。
 
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