第8話 第三次直上決戦

3月16日 午前9時3分 プラボカ北西湿地地帯

一方、傭兵部隊を筆頭に、ウォルス軍が暴れ回っている区域では、シャドウがひときわ目立った働きを見せていた。既に彼の小太刀は真っ赤に染まり、周辺は肉の塊がゴロゴロ転がっている。昨夜の惨状を思い出させる。

(ふん。他愛のない・・・。)

辺りの敵を一蹴すると、更に他の敵に手を伸ばす。周りは鷲づかみに出来るほどの敵がいる。今しばらく惨劇は続く。
 
シャドウの暴れるすぐそばでは、カイエンも奮闘していた。バロン兵らは、見慣れぬ剣術を使う相手に大変手を焼いていた。見た事もない剣術に対しての対処法がつかめない。その上、圧倒的な技量の差がある。

「取り囲め!」

敵の指揮官が、この厄介な相手に素早く指示を下す。更に傭兵部隊を引きつけぬ様、他の兵士が傭兵部隊にぶつかる。こうして素早くカイエンは敵に取り囲まれた。が、技量の差は覆うべくもない。

「行くぞ!」

かけ声と共に、一斉に敵が襲いかかる。が、カイエンは臆することなく構える。しかし、構えが今までとは一変し、敵に鋭く刀を向けた。

「我が必殺剣の力、とくと見るがよい!!」

喊声。そのまま一団に、一心不乱に突撃。これに危機を覚えたバロン兵らは、退こうとするが、時既に遅し。虎の牙が彼らに迫っていた。
必殺剣・牙。ドマ王国秘伝の刀術。その中でも、刺殺力では屈指。雑兵にかわせる代物ではない。

「あっ、あァァァ〜!!」

兵士の鎧が紙で出来ているかの様に裂かれ、鮮血がボトボトと流れ落ちる。

「な、なんだと!?」

「なんて強さだ?」

他の兵士に動揺が広がる。これを突かぬ手はない。一気に叩く。

「覚悟いたせっ!一人たりとも逃がさぬ!!」

「に、逃げろ!」

「うわああぁ〜!!!!」

鬼神の如く剣を振る姿は、バロン兵にとっては恐怖以外の何物でもない。

「ぎゃっ!」

「うぐ・・・。」

右へ左へ動く刀が、確実に敵の命をそぐ。更に逃げる敵にカイエンは、新たな技を繰り出す。この技も構えがまるで違う。刀を鞘に収め、深く屈む。抜刀術のようだ。刀に手をかけ、その瞬間、抜刀。凄まじいの一言に尽きる。が、逃げる敵に刀は届かない。敵を引き裂いたのは、実体の刀ではなく、抜刀によって生じたかまいたちだった。

「がぁっ・・・!」

「あっ・・・。」

目に見えぬ刃をかわすことなぞ出来るはずがなかった。たった一人の一振りに、多数が切り刻まれる。秘伝の剣術でも、抜刀術でかまいたちなど起こせない。
原因は刀にある。風斬りの刃。振る事で、かまいたちを起こすとんでもない代物だ。だから、ドマの人々は風斬りの刃を妖刀と呼ぶ。その妖刀を振るいつつ、更に敵を見付けては斬る。ふとその中に、他とは異なる装備の敵が目に入り込む。朱色の装備のバロン兵の中でその敵は、青い甲冑を身につけている。敵の指揮官の様だ。それも隊長クラスなどではなく、かなり高い階級の者の様だ。彼を叩けば、指揮は乱れ、敵を一網打尽に出来るだろう。そこに全速力で向かう。やはりその間も、敵を切り抜けかき分けてゆく。
 
「第2中隊劣勢!」

「第1分隊全滅!」

「右翼部隊劣勢!増援を!!」

伝令からの報告を聞きながらも、激しく思考する士官。それはベイガンだった。バロン側先発隊の指揮官である。彼にとって計算外だったのは、ぬかるみに兵の足を取られたところに、敵の銃撃が襲った事だろう。それでもここまでバロン軍が戦ってこられたのは、ひとえにベイガンの力があったからだろう。が、さすがに彼の能力にも限界が見えてきた。今、どこも兵力に余裕がない。とても兵力を抽出できそうになかった。かといってこのままでは敵の侵攻を許す事になり、総崩れになる可能性も出てくる。どうすべきか?と熟考していたその時・・・。

「うぎゃぁ!」

「がはっ!」

バロン兵の悲鳴と共に、単身敵が乗り込んできたのだ。黒い、見慣れぬ武具を身につけた、侍だった。これにバロン兵は驚愕する。が、敵の背後に更なる敵の姿があった。傭兵部隊である。先の足止めを討ち、破竹の勢いで攻め上ってきたのだ。なかでもタイクーン軍は、目覚ましい活躍である。彼ら叩き上げの軍人に正攻法は通じない。為す術なく、侵攻を許していた。が、ベイガンは逃げるでもなくその場にいる。状況を静観しているだけだ。一方、カイエンは明らかに大将らしいベイガンを逃がす訳はない。敵味方をかき分けて、ベイガンの前に躍り出ていた。カイエンは名乗りを上げた。

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