第6話 初陣
午後12時43分 ウォルス領 カーウェン駅プラットホーム 後半2
一方バロン軍は、惨めな敗走を始めていた。100人だった偵察部隊が今やたったの20数人。幸い、隊長が存命で指揮が執れた事と、周辺が起伏に富んでいるため敵は思った様に追撃が出来ず、何とか彼らは逃げ延びていた。
「くっ!や、やってられるかってんだ!!」
と逃げながらも悪態をつく兵士達。彼らは逃げるのに夢中で、後ろの事には全く気にとめていなかった。だから、シャドウは簡単に敵に近づく事が出来た。
「がっ・・・!!」
「な、なんだ?!」
突如併走していたバロン兵が倒れる。そして・・・。
「がぁっ!」
併走していた兵士は何が起こったかも理解出来ず、命を落とす。シャドウが兵士の首をあらぬ方向にねじったからだ。みし、と音を立てて首から力が抜ける。
「ば、化け物めっ!」
それを見た別の兵士がシャドウに全速力で斬りかかる。が、インターセプターがそれを阻んだ。敵の顔面に全力でかみついたのだ。
「あっ、あぁアアアァっ、、、あ〜〜っッ!??」
激痛が走り、地面にもんどり打つ兵士。インターセプターはつかさず混乱状態の相手のノドをその鋭い牙で断ち切った。
「な、何だ、あいつは・・・・。」
「う、あ、あいつから逃げられると思うな、袋叩きにしろっっ!」
「お、おぉ〜!」
1人のバロン兵が半ば恐怖に駆られて言う。それに同調し、シャドウに襲いかかる5人の兵士。愚かな、とシャドウは思う。腰の小太刀を抜き、突進する。相手よりも遙かに速く。まるで風の様に。
「ぁあ?」
まず先頭の兵士のノドを裂く。迫る2人目。小太刀を躊躇することなく兜に突き立てる。懲りぬ3人目と4人目は左右に散り、5人目は前から。囲まれたと思うだろう、普通ならば。だが、シャドウは違う。彼は戦士などではなく、鍛錬と殺戮が創りあげた修羅なのだから。
「おい。」と、腹の底から唸る様な声が、耳をなめる様に伝った。
敵は戦慄を覚える。
「邪魔するな。」
次の瞬間、シャドウは深く腰をかがめ、小太刀を手に前に立ちはだかるバロン兵に突進した。反撃する暇も与えられず、首に深々と傷を負う。
「ち、ちきしょぉおっ!」
錯乱状態に陥った2人が一丸となって迫る。シャドウはフン、と鼻で笑うと「インターセプター、飯の時間だ。」と告げ、まだ逃走する残存部隊の方へ走っていった。
インターセプターは主人の言葉を忠実に守る。この2人は誰よりも残酷な末路をたどるだろう。
隊長は10数人の部下を連れ、何とか戦線離脱をはかった。
「この事をセシル様に伝えねば・・・。」
不安混じりの言葉を発した直後、部下の悲痛な叫びが彼の耳に飛び込んだ。
「何事かっ!?」
反射的に振り返り、剣を抜く。シャドウである。彼は敵を見ては非情な手段で仕留めていった。
「プレゼントだ。」とシャドウは、自分が斬った相手の腕を今度は違う相手に投げつけた。
「ひぃっ!」
目をつぶったが終わりだ。彼は腕の主と同じ末路をたどった。四肢と体が切り離される。残り12人。そのうち11人が一斉に襲いかかった。が、シャドウは余裕ある動きで札を手に取った。
「これで休んで貰おう。」
言うとシャドウは札に書いてある文字を読み上げた。
「火遁!」
その刹那、札の文字が赤く光り、炎を生み出していた。地獄の業火の様に、次々と人を焼き払う。
11人は瞬く間に焦げた肉片となった。それを見た隊長は、もはや勝ち目はないと見たのか、諦めの念を抱いた笑みを浮かべて、
「勝負っ!」
ダッと地面を蹴り、駆ける。シャドウはあえてその場に立ち止まり、横に小太刀を構え、迎え撃つ。2人がすれ違う。その直後、隊長は血を吹きだし地面に伏せっていた。息はあるが重傷には違いない。いずれ死んでしまうだろう。
「く、くそう・・・。」
隊長は最後の力を振り絞り、剣を握りなおす。が、うまくいかない。血を出しすぎたのだ。シャドウは振り返り、虫の音の隊長に話しかける。
「剣を捨てれば、楽に逝かせてやるが・・・?」
「そう、か・・・。」
隊長は力無く笑い、剣を投げ捨て、深く息を吸う。シャドウは新たな札を取り出した。火遁ではない。
「言霊!」
それは死を誘う札である。漆黒の札から悪魔の様な手が伸び、隊長の命を奪っていった。札は効力を失った。
「さて・・・。」
シャドウは何事もなかった様にその場を立ち去ろうとした。
「だが、これではモンスターが群がるな。」
辺りは死体の山だ。翌日には肉をあさるモンスターで一杯だろう。ここは自軍が通るルートだから、障害は排除すべきだ。シャドウは再び火遁の札と、それともう1枚別の札を取り出した。木の葉乱舞。凄まじい突風を引き起こす札だ。火遁によって起こされた炎は、木の葉乱舞の突風により勢いを増し、辺りを火の海とした。これで死体は綺麗に燃えるだろう。バッツはそれを見ながら思った。味方で良かった、と。バッツにとって長い夜が終焉を迎えた。彼は漆黒の夜を焦がした地獄の業火を忘れる事はないだろう。