第6話 初陣

午後12時43分 ウォルス領 カーウェン駅プラットホーム 後半1

その一団は、ランプを片手に闇夜を進んでいた。その数2万3千。カーウェンに集結したほぼ全てのウォルス軍である。しかしこれだけの部隊が移動するのは容易ではない。敵が潜んでないか、斥候を放ったりモンスターや敵の備えて警戒行動を取りながら進まねばならない。バッツの隊長としての初任務は、部下達と共に偵察をする事だった。偵察は隠密行動を取らねばならない。指示一つ出すにしても細心の注意を払わねばならない。これは良い訓練だ。

と、1人の部下がバッツに近寄ってきた。

「隊長、敵です・・・!数は約100。恐らく我らと同じ偵察部隊かと。装備からして、陸兵団のようです。」

それは小声ながらも、バッツは驚愕を覚えた。

「いかがされますか?」

しばし考える。ここにいるのは50人ほどの赤魔道騎士達。相手は100人の陸兵団。数では向こうが、実力ではこちらが勝っている。どうすべきか・・・。バッツは思考を巡らせる。

(今の任務は偵察だ。敵と戦う事じゃない。けど、こいつらがまだ前進するならば・・・。)

「しばらく様子を見よう・・・。退く様なら仕掛けない。まだ進むなら・・・・。」

「進むなら・・・?」

「こちらから仕掛ける。全員に伝えてくれ。」

「はっ!」

兵士はチョコボにまたがり、静かに移動する。この辺りは起伏に富んでおり、身を隠す事に苦労しない。
全員が速やかに岩や窪地に隠れる。一方その頃、自分たちが既に見つかっている事に気づいていないバロン兵らは”一応”任務をこなしていた。と言うのも、暗闇の中をランプ片手にただただ歩き回り、無駄話に花を咲かしていたからだ。彼らは油断していた。既に自分たちに2度敗北した相手が、自分たちを攻撃するなど考えられない事だからだ。幾つにも分かれた分隊の内、1人のバロン兵があくびをしながら言った。

「ふあぁ・・・。偵察って言っても、こんな所に敵は潜んでるって言うのか??ばかばかしいぜ。」

「そう言うな。これで給料もらってんだ。」

「ああ、安月給だがなぁ。」

「へっ、違いない。それにしても王も分からん事をする・・・。

軍備に金をかける前に俺たちの給料をどうにかして欲しいモンだ。」

彼らは不用心にも起伏に富んだ方へを歩いてゆく。彼らの先にはバッツが直接率いる部隊がいる。バッツが、いや、その場に居合わせたウォルス兵全員が手に汗を握った。

(来るか・・・!!)

息を殺し、影に姿を潜める。すぐそこにはバロン兵。

「あぁ、早く本国に帰りたい・・・。」

とまた無駄口を叩くバロン兵だったが、彼が無駄口を叩く事はもうなかった。音もなく、夜の暗闇に溶ける様に倒れる。

「ん?おい、どうした?!」

同僚の1人が気づき、腰をかがめ、声をかける。背後にはバッツ。ボコに騎乗しながらも気配を消している。

「がっ!」

と、同僚に声をかけた兵士が押し殺した様な声を上げた。アイアンソードがのどを貫く。

「な、何だ!?」

残りの兵士らが慌てて剣に手をかける。

「わぁー!」

雄叫びをあげるバッツ。それに反射的に剣を抜くバロン兵。数は3。だがバッツの方が技量が上だし、ボコに騎乗している。視界が悪いが、それはお互い様だ。

「ぐふっ・・・。」

「あっっ・・・。」

素早く2人を切り捨てる。残る1人は震える手で剣を持つ。

「くっ、くっ、来るなぁ・・・!!?」

が、バッツは非情にもボコの手綱を引き、ボコは弾かれた様に加速する。バロン兵を切り捨てていた。

「仕掛けろー!!」

バッツは敵を倒すと、今度はいきなり叫びをあげた。それに赤魔道騎士らが答える。

「突撃っ!!」

影に隠れていた騎士達が一斉に飛び出した!いきなりの敵襲にうろたえるだけのバロン兵たち。

「うわぁ〜!」

叫び、逃げるバロン兵。しかし暗闇の中では思う様に進めない。がら空きの背後に魔法がたたき込まれる。

「ぐえ・・!」

無様な断末魔の叫びをあげ、背中を黒こげにして倒れるバロン兵。それを見た別の兵士は思わず叫びをあげた。

「こいつら、赤魔道騎士か!?」

「こ、こんな奴らにかなうはずがない・・・!」

これまでの鈍い動きがウソの様に、バロン兵らはてんでばらばらに逃げ始めた。だが、もう遅い。一度混乱に陥れば、後はこちらの物である。

「たたきのめせっっ!」

とバッツは目の前のバロン兵を一蹴しながら叫んだ。それに呼応するかの様に、闇夜を魔法が焦がす。ファイア。黒魔法の初歩である。本来の威力は低いがそれは、使用する者の魔力に左右される。鍛え抜かれた赤魔道騎士達なら、ファイアでも充分戦える。ある者は魔法の前に倒れ、またある者は切り伏せられ。そんな乱戦の模様を1人、冷静に把握している者が闇の中にいた。シャドウである。その名の通り、闇夜と同化している様である。

「戦いを始めたか・・・。」と溜息混じりに言う。

「お前の任務は偵察ではなかったのか・・・?」

静かに、バッツの方を見やった。

「仕方がない。」と言うと、シャドウは闇に乗じて一気に戦場に向かって駆けた。インターセプターも後を追う。

「はっ!」バッツがアイアンソードを振り下ろし、一撃でバロン兵を倒す。だが、更なる敵がバッツの右から迫った。が、バッツは動じない。巧みに手綱を引いてボコを、右に向かせる。敵は2人。1人はそのまま突進するが、もう1人はバッツの背後に回り込もうと、大胆な動きを取る。

(どうする?!)と一瞬考える。

が、目の前の敵は剣を振り上げ、下ろそうとしていた。

「くっ!」

これを辛くも篭手で防ぐ。が、動きが取れない。そして後ろからはバロン兵。ここまでか!と、諦めの念を抱いたその時・・・。当然背後から迫るバロン兵が倒れた。背には深い傷。そしてその背後にはシャドウ。

「行くぞ。」と低い声で唸る様に言うと、バッツの後ろを突こうとしたバロン兵より遙かに速く、バッツと対峙しているバロン兵の後ろをとる。バロン兵は前はバッツ、後ろはシャドウにふさがれ、身動きが取れない。そこに容赦なくシャドウは斬りつける。一撃。体から鮮血が飛び散り、転がる。シャドウは今さっき人を斬った事など忘れた様にバッツに言った。

「どういう事だ?任務は偵察ではなく戦闘だったのか??」

容赦ない言葉にバッツはただただ小さくなるしかなかった。

「すみません・・・。」

「俺に謝ってどうする?まぁ、いい。後は任せてもらおう。」

感情という物が読みとれない声で言うと、シャドウは敵の方へ歩いていった。バッツの事など忘れた様に。
慌ててバッツは声をかける。

「あ、あのどこへ・・・。」

「お前の詰めの甘さを清算してくる。」

言うとシャドウはインターセプターを連れて、闇の中にとけ込んでいった。
 
戻る