第6話 初陣
午後12時43分 ウォルス領 カーウェン駅プラットホーム 前半
赤い屋根の大きな駅のプラットホームで、2人のウォルス兵は、列車が来るのをまだかまだかと首を長くして待っていた。
「ちくしょうっ!まだこねえのか?!」と1人が悪態をつく。
焦りから来るモノだった。プラボカを占領した敵は、このカーウェンをも占領するため、大軍を差し向けている。このカーウェンが陥落すれば、いよいよ首都での決戦だ。
それを阻むため、カーウェンには通常の2倍以上の兵力が集結していた。占領されたアガルト、プラボカから逃げ延びた部隊や、今現在は落ち着いているドール戦線から抽出した部隊、そして首都から派遣された部隊を加えてはじき出された数だ。これらに加えて彼らが待ちかまえている城からの傭兵部隊で、ウォルス軍の反攻作戦は、はじめて開始するのである。だが、これがなかなか来ない。傭兵部隊が反攻作戦で、最も重要な役割を担っていると言って良いからだ。小規模ながらも、機動力と技量に富み、おとりや先陣を切るにはもってこいだ。その部隊が到着しないのだから、正規軍に属している彼は焦りで、悪態の一つもつきたくなる。
「そう言うな。傭兵部隊は逃げはしないさ。こっちに向かってるんだから。」
もう一人のウォルス兵が、相方をなだめる。
「そうは言うがなぁ、相手は既にプラボカを出て、この近くに陣地まで設営してんだぞっ?!
これが焦らずにいられるか?!」
なだめた側は、悪態をつく側が焦っている事に気づく。
「お前、焦っていたのか・・??」不思議そうな顔をしていった。
「お前こそ焦らないのか?俺たちはウォルス軍人だぞ!祖国がならず者共に支配されかけてんだぞッ!??」
錯乱気味ながらも、機関銃の様に反撃する。しかし相手は穏やかに、あくまでもなだめ、諭す様な口調で言った。
「まぁまぁ。予定ならそろそろ着くし、なにより今回の司令は我らがドーラ将軍が指揮を執られる。あのお方なら、まぁ何とかするだろう。」
お前は人を信じて疑わないなぁ、と相方が言おうとしたその時、遠くから汽笛が聞こえた。
「おおっ、やっとお出ましか。」歓喜と皮肉を込めて兵士は言った。
ここは軍用列車専用のプラットホームである。レールも民間のとは独立している。ここに来る列車には軍人しか乗ってない。そして時間的にも、彼らの待っていた傭兵部隊を乗せた物に他ならない。列車を牽引して居た機関車は、キッとブレーキをかけ停車した。すると、機関車と隣接している客車から、一人の壮年の男が現れた。
カイエンである。2人の兵士はカイエンに歩み寄った。カイエンが礼をする。2人もそれに合わす。
「拙者、傭兵部隊の指揮官、カイエン・ガラモンドでござる。」
「ガノー中尉であります。」こっちは諭す様な物言いをする方だ。
「フューン中尉であります。」こっちは先程まで悪態をついていた方だ。
「将軍が、宿営地であなた方をお待ちしております。私どもがご案内させて頂きます。」とガノー。
「宿営地に到着致しましたら、カイエン様には早速将軍と会議を開いて頂きたいのですが。」フューンが言う。
カイエンは質問した。「そこまで、戦況は逼迫(ひっぱく)しているのでござるか??」
「戦況の事も踏まえて、将軍と会議を開いて頂きたいのです。」フューンが答えた。
「承知致した。ほかの部隊の者達はどう致します?」
「他の傭兵部隊の方々も、宿営地に移動願います。部屋は既に準備が整っております。」
カイエンら3人のやりとりの間、バッツらは列車の客室で待っていた。ちなみにここには彼の他にレナ、ファリス、ガラフ、クラウドがいる。
「ウォルスはどの都市も大きいのね。」
レナは率直な意見を述べた。タイクーンは非常に人口が少ない。それに比べてウォルスは非常に人口が多い。このカーウェンの人口だけで、タイクーンの総人口を軽く上回っている。
「確かに。さすがはカルナック大陸屈指の大国だな。」と、クラウドが付け足す。
「それにしてもまだかのぅ?停車して10分は経っておるが。」
ガラフは車窓の外を見ながら言った。人気のないプラットホームでは、3人の男が立ち話をしているだけである。すると、1人の男が客車の方に歩み寄り、中に入っていった。カイエンである。
「??ありゃ、カイエンさんかな?」とバッツ。
それにファリスが答える。「放送でもかけるつもりなんだろ。そろそろ移動かな。」
ファリスの言葉通り、すぐに放送を通してカイエンの野太い声がきこえてきた。わずかにかすれて聞こえるのは、機械を通しての声だからだろう。
「これより我々は、ウォルス軍の宿営地に移動する。先程城で編成した50人単位での行動をお願い致す。」
プツリと言う音と共に放送は終わり、それぞれ班をくみ、ガノーらの案内で宿営地を目指した。バッツはボコと一緒に顔を右に左に動かす。建物の多さやその造りなど、彼の故郷であるダムシアン領リックスとは全く違っていた。リックスは、フィガロの国境付近の森の中にある村である。人生の大半をそこで暮らしたバッツには、どこを見て回っても新鮮そのものだったが違う大陸の町を見て歩くのは初めてだ。持ち前の旺盛な好奇心からか、顔は常に一点を見据える事を知らない。
ちなみにバッツは去る3月2日に祖国がガストラ軍に攻撃され、3月6日にバロン軍に占領された事を知らない。幸か不幸か、バッツは旅に出ていてダムシアンにはいなかったのだから・・・。
「あれか。」と、クラウドが目の前に見えてきた巨大な建物を指していった。
その言葉通り、他の家々とは明らかに大きさの違う家が、堂々と建っていた。家というより館という表現が正しいだろう。その館の周りは見るからに丈夫そうな塀があり、これまた丈夫そうな門がドンと置かれていた。更にその両脇にはウォルス兵の姿が。何を隠そう、ここがウォルス軍の宿営地である。ホテルの様な巨大さを誇っている。また外見もホテルのそれに劣るとも勝らない。
「傭兵部隊をお連れしました。」
フューンが門番に言うと、門番は門を開け、宿営地に招いた。傭兵部隊が入館する様子を、一人の眼光鋭いウォルス軍士官が見つめていた。ただの士官ではない。身につけている軍服は、立派な肩章と胸に功績をたたえる数々の勲章が目に付く。彼こそは、ウォルス軍反攻作戦司令、ドーラ・カノーネ将軍である。彼は将軍と、赤魔道騎士団団長を兼任している。これは陸軍内にありながら、独自の指揮系統で動いている。
彼らの操る赤魔法とはどのような物なのか?赤魔法とは、黒魔法と白魔法の2つの魔法を操る物である。本来、黒魔法と白魔法の両方を使う事は出来ない。互いに反発し合うからだ。例外として魔導の力を使えばそれは可能だが、これは基本的な概念が違う。魔法と魔導は全く別のモノである。魔導の助けなく、無理なく2つの魔法を使いこなせないか、と言う発想が赤魔法のルーツだ。ただ、赤魔法の完成度はそれ程高くはない。赤魔法を極めた者でも、黒魔法や白魔法を極めた者にはかなわないのだ。つまり赤魔法とは、制限を付ける事で成り立っている。それでも赤魔道騎士団が、ウォルス軍における伝家の宝刀の役割を担っているのは、この世界では魔法という物が大変大きく見られているからだ。
そのウォルス軍の伝家の宝刀と言うべき部隊の長が今回の反攻作戦の総司令だ。彼は窓から、傭兵部隊の様子をうかがっていた。数あわせの部隊だと彼は思っていたが、それはどうやら違うらしい。全体的にレベルが高そうだ。
「これならば、敵と互角に戦えよう。」
安堵を含んだ声を出す。思えばここ数日、この司令室で自分は奔走(ほんそう)していた。どこぞの部隊が壊滅したとか、部隊の編成、敵状視察など。これをしなくてすむという安堵が彼の心にあった。
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