第5話 開戦準備

午前10時 ウォルス城 中半

「それにしても、ウォルス王が理解のある方で良かったわ。」とレナ。

ウォルス兵の手前、声の大きさは最小限に絞ってある。この言葉が聞こえたのは、言葉を差し向けられたバッツにのみ伝わった。バッツも小声で応ずる。

「ホントに良かったよな。けどレナ、これから戦う相手はモンスターじゃないんだ。俺たちと同じ人だぞ。その人たちと戦えるか??」

バッツは小声ではあるが、真剣にレナに聞いた。少々の間があいた。

「確かにそうだけど、迷ってなんかいないわ。覚悟はあるつもりよ。」

「ホントに??」

「・・・うん。」

心細そうに答えるレナ。しかしバッツもレナの気持ちが分からないでもない。人間が自分と同じ人間と命を取り合う事に強い抵抗を抱かないはずがない。レナは不安を抱え、待合室に向かった。それから数分もしない内に、大きな扉の前に4人は立っていた。

「ここが待合室になります。もうしばらくしたら部隊の編成に取りかかりますので、室内にてお待ち下さい。」

案内の兵士はそう言うと扉を開け、こちらへ、と言い4人を入室させた。

「かなり広いのう。」

ガラフが部屋を見回しながら言った。確かに広い。そしてその広い室内には500人ばかりの傭兵達が居た。その中にはタイクーン軍30人の姿もあった。4人がサウザードに謁見していた間にここに来ていたのだ。4人はタイクーン軍の面々と合流し、時間を過ごしていた。それにしても当たり前だが、500人は統一性に欠けている。服装、武器、目の色、髪の色、そして志。国の危機を救おうという者や、あえて危険に身をさらし、己の向上を図る者、金目当ての者・・・。

その中でも群を抜いて変わった姿をした者をレナは、見いだしていた。周りの騒がしい雰囲気とはまるで違う、静かでそれでも力強い物を秘めている様な感じだ。

「ねえ、バッツ。」

「ん??」

レナは一団から離れたところにいる者を指さしながらバッツに尋ねた。

「あの人、どこの兵士かしら?あんな武具は見た事ないけど。」

「あれは・・・。」

バッツが目にしたのは、黒髪で目の色も黒く、見慣れぬ武具を身につけ、直立不動のがっちりとした体格の男だった。あれは確かに見た事がある格好だ。文献で見た覚えがある。

「あれは侍だよ。」

「侍??」

レナは聞き慣れぬ呼び名に首をかしげた。

「侍って言うのは、剣士みたいなモンなんだけど、刀って言うドマ王国独自の剣を身につけているんだ。
流儀も俺たちとは全く違う。」

「そうなの・・・。じゃあ、あの人は?」

レナは今度は、若い金髪の男を指さした。ツンとたった髪、澄んだ青い瞳、黒と紫を基調とした独特の服装、腕輪にはめられた珠。背の巨大な剣。さっきの侍とは違ってそこらの傭兵と同じように統一性に欠けた格好をしている。だがバッツは、彼の目の異常なまでの青さに着眼した。

「あれは多分ソルジャーだ。」

「ソルジャー・・・。!?ソルジャーってガストラ帝国の神羅カンパニーが誇る、あの?!」

レナはソルジャーの名と共に、その強さも思い出した。ソルジャーの強さはガストラから遠く離れたタイクーンにまで届いている。

「ああ。ソルジャーならあんな剣も使いこなせるだろうな。それに腕輪にはめられた珠は、多分マテリアだ。」

「マテリア・・・。神羅カンパニーの世紀の大発明ね。」

「ああ。」

神羅カンパニー。それはガストラ帝国に本社を置く大企業だ。ガストラ帝国成立以前、つまり20年以上前に新羅カンパニーの前身となった企業は、地の奥深くから魔洸を発見した。

魔洸とは何か?それは人類で初めて魔洸を発見した神羅ですら定義し難く、未だにその多くが謎だ。ただ少量の魔洸からとてつもなく膨大なエネルギーを得る事が出来るのは確かだ。その上、使用した際に化石燃料の様に人体や環境に有害な物質も著しく少ない。この夢の様なエネルギーを神羅は手に入れ、瞬く間に一企業から、企業国家へと成長を遂げた。

今では私設軍隊を持ち、魔洸都市ミッドガルを神羅が管理運営し、帝国軍に技術提供なども行っている。マテリアはその神羅が開発した兵器である。装備すれば魔法が使える様になったり、身体能力を向上させたりできる。

ソルジャーとは神羅の誇る精鋭の兵士達だ。ソルジャーはその証として目に魔洸を浴び、青い瞳になる。彼らソルジャーには1ST、2ND、3RDの3つの階級があり、1STと呼ばれるソルジャーが神羅の精鋭の中でも最も強い。主任務は神羅・帝国の要人の警護、モンスター掃討などだが、帝国正規軍に編入され実戦に出る事もある。

だがそのソルジャーがなぜウォルスにいるのか?ウォルスとガストラの仲は言うまでもなく最悪だ。と言う事は部隊の内部崩壊が狙いか・・・?バッツはそう考えたが、それはすぐに頭の中から消え去った。仮に彼の任務が傭兵部隊の壊滅だとしよう。だがいくらソルジャーでも500人を相手にする事など不可能だ。
仲間がいれば別かも知れないが、少数精鋭のソルジャーをたかだか一部隊壊滅のために複数投入するのも疑問が残る。

「元ソルジャーじゃないのかな・・・?」

「ふうん・・・。なんでソルジャーを辞めたのかしら?」

「分からない。けど何かの理由があっての事だろう。」

そう言うと、バッツとレナの間を人がスッと通っていった。

「失礼・・・。」

「あっ、、、はい。」

慌てて道をあけるバッツ。見ると、声の主は黒ずくめの男だった。スマートながら筋肉質で、無駄な物が全く付いていない肉体。冷たく、鋭く光る赤い目。そして彼の犬なのか、男の後ろを歩く猟犬。訓練されているのか、周りの人間にほえる事も何もしない。男も犬も、その目に冷たい光をたたえている。まさしく狩人の名が似合う。

「暗殺者、か。」

つぶやく様にバッツが言った。その言葉にレナの目が大きくなる。それにファリスが割り込んだ。

「あいつは確か、暗殺者シャドウだ。金のためには親友をも殺しかねない暗殺者だ。」

「関わらない方が良さそうね。」

ファリスの言葉にレナが相づちを打った。

その時、4人が入ってきたのとは別の扉から一人の士官が入ってきた。

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