第5話 開戦準備
午前10時 ウォルス城 前半
ウォルス城内には、鉄道の駅が存在する。それは本来客人を招くための物だったが、このごろは部隊を素早く戦地に派遣するための手段になっていた。駅が本来の役割を果たしたのは久しぶりと言って良い。
一行の代表としてバッツ、レナ、ガラフ、ファリスがウォルス王と謁見する事となった。
4人は城内を案内されてゆく。ウォルス城は外見も内装も水と見事に調和した物だった。城の至る所に堀が施され、水が流れている。それは見る者の心を落ち着かせる様な物だった。しかしながら、ウォルス城は流麗な外見とは裏腹に非常に実戦的な構造だ。至る所に施された堀は深く、敵の侵入を防ぎ、高く大きな城壁は城と堀をすっぽりと覆っている。更に城壁の外側にも堀がある。
一行は、案内の兵士に導かれて、王の間に続く扉の前にいた。
「少々お待ち下さい。」と案内の兵士が言う。
兵士は王の間に入り、そしてしばらくして4人の前にある扉が開いた。玉座は階段の上にあり、扉から玉座までは赤い、豪奢な絨毯が敷いてある。また王の間も水のクリスタルの恩恵を受けており、玉座のある床の両端から、水が階段状の床に流れている。
玉座に座っている大柄のヒゲの男が立ち上がり、4人に言った。
「ようこそ、ウォルスへ。よくぞおいで下さいました。」
彼こそはウォルス王、サウザード・ウォルスである。王の威厳に満ちた顔だが、どこか疲労の色を隠せないでいた。ここのところ軍を指揮していたからだろう。
「サウザード陛下、お久しぶりでございます。」とファリス。
サウザードはそれに対して微笑んだ。サウザードはその言葉に笑みを浮かべながら頷いた。こちらこそ、とでも言いたげである。
「あなた様が、レナ様ですね?お話はタイクーン王から何度か聞いておりました。」
サウザードは、レナに視線を向けて言った。
「初めまして、レナ・シャルロット・タイクーンでございます。陛下のお話は父から聞かさせておりましたわ。」
両者は初対面であり、タイクーン王を通じてお互いの話を聞いた程度の事である。
レナはサウザードに対して、深く礼をした。
「そちらのお二人はどなたですかな?」
サウザードがバッツとガラフに向けていった。バッツは旅人だし、ガラフに至っては身元不明である。2人とも説明に困ってしまった。
「この2人は私を助けてくれた恩人なのです。」
レナがフォローする。
「恩人?」
サウザードが頭に疑問符を浮かべた。これを更にファリスがフォローする。
「話せば長くなるのですが・・・・。」
ファリスはサウザードにこれまでに起きた事を話した。タイクーン王が突如城を飛び出した事、タイクーンに隕石が落ちた事、風の神殿での出来事。
「その様な事がタイクーンで起こっていたとは・・・。バロンなどからはクリスタルを守れるやも知れぬが、相手が暗黒魔道士では防ぎ様がありませんな・・・。」
サウザードは深刻そうな口調で言った。これ以上危険因子が増えるとは思ってなかった。いや、思えなかったのだ。二大軍事国家ににらまれるコト以上にまずい状況もそうあったものではない。困り果てた様子のサウザードにファリスが言った。
「たしかに暗黒魔道士からクリスタルを守るのは不可能かも知れません。しかし、クリスタルが砕ける前に何かの前触れが起こる可能性があります。」
「話にあった隕石、ですか?」
「恐らく。とりあえず、今は暗黒魔道士よりもバロン・カルナック連合運を追い払う事に専念しましょう。」
「そうですな。タイクーン軍の応援、まことにありがたく存じますが、いかにして戦われますかな?規模からすると、単独で動くワケにはいかないと思うのですが。」
「私たちを傭兵としてウォルス軍に入隊させて頂けないでしょうか?首都でウォルス軍が傭兵部隊の編成を急いでいると聞きましたが?」
町で情報を掴んでいたのだ。
「確かに。30人は傭兵部隊にとっても貴重な戦力になりましょう。」
サウザードは納得した様に、頷いた。だがしかし、ここからが本番だ。ファリスの交渉の手腕が試される。
「できることならば、私たち4人も入隊させて頂きたいのですが。」
「あなたがたが、ですか?」
王族が自ら戦場に出ると公言しているのだ。驚いて当然である。
「王族とは言え、貴重な戦力には変わりありませんでしょう?」
ファリスの真剣な言葉に、サウザードは思考を巡らせた。
「もしや、城を出られたときも誰かに無茶はするなと言われましたかな?」
「?・・・はい。」
ファリスは首をかしげながら言った。
「ならば、私からは何も言いますまい。私も無茶をせぬ様あなた方に申すつもりでしたが、その必要はないようですな。」
サウザードは笑みを浮かべながら4人に言った。
「では、私たち4人の傭兵部隊入りを認めて下さるのですね?」
「認めるも何も、腕の立つ方なら大歓迎です。私たちはあなた方を喜んでお迎え致しますよ。」
サウザードは言うと、4人をここまで案内した兵士に言った。
「この方々を、待合室までお連れするのだ!」
「はっ!」
兵士は威勢良く返事をすると王の間から退室した。4人もそれに続いた。