第4話 暗黒騎士
午前8時 バロン王国 バロン城 後半
陛下は本当に変わってしまわれた・・・。」
セシルはぽつりと言った。
「確かにそうだが、俺たちはバロン軍人だ。陛下のご命令ならば、何でもやってのけないといけないだろ?」
カインが気を遣っていった。ローザもそれに続く。
「そうよ。落ち込むなんて、私の大好きなセシルではないわ。」
「大好き」の言葉に顔を曇らせるカインだったが、2人はそれに気が付かなかった。
「確かに陛下の近頃の行動は不可解な点が多いけど、何かのお考えがあっての事よ。」
2人の言葉にセシルにわずかながら元気が戻った。
「ありがとう、2人とも。じゃあ、てはず通りに各々の準備に取りかかろう。」
3人はそれぞれの準備に取りかかった。セシルが向かっているのは暗黒騎士団の兵舎である。それは飛空挺ドックと隣接している。飛空挺は全て臨戦態勢を整えているゆえ、セシルは飛空挺技師長に一言出撃すると伝えるだけでよい。そうするためにセシルは飛空挺ドックに入る。飛空挺ドックは城壁に囲まれているため、城壁の昇降機を使ってドックまで降りる必要がある。
セシルが上がってくる昇降機を待ちかまえていると、昇降機から技師長が降りてきた。たくましいがっちりとした体付きに、これまたたくましいヒゲと、機械油に汚れた作業服と、そのポケットに無造作に突っ込まれたスパナやドライバーがトレードマークだ。
シド・ポレンディーナ。バロンの飛空挺の生みの親である。
「おー、セシルかぁ。」
シドは心底嬉しそうにセシルに声をかけた。パルパレスと同じくシドは、セシルを我が子の様に思っている。
「どうじゃ、調子は?ローザが心配しとったぞ?ローザを心配させたらこのワシが許さなんからな!」
と冗談交じりに言うシド。だがセシルは暗い顔をしている。いつもなら笑って軽く言い返すセシルなのだが・・・。シドは心配そうに尋ねた。
「どうかしたのか?」
「実は、シド・・・。」
セシルはパルパレスから与えられた新たな任務について、シドに話した。
「なんじゃと?水のクリスタルを?!全く陛下は何をお考えなのじゃ!2年前から段々おかしくなってきよる。新型の飛空挺を作れとおっしゃるし、飛空挺に搭載する新兵器の開発も急げとおっしゃる・・・。わしは飛空挺を人殺しの道具になんぞしたくはないんじゃ!確かに、軍の施設と金で飛空挺を作ったのはわしじゃが、あくまでそれはバロンの発展と自衛のためじゃ。侵略のためではない!町の者も不思議がっとる。ともかく気を付けてな!わしは家に帰る。最近帰っとらんので娘がうるさくてな。飛空挺の準備はわしから部下に言っておく。とにかく、迷いは捨てる事だ。でなきゃ、自分の命も部下の命も無駄に散ってしまうぞ!!」
「ああ、ありがとう、シド・・・。」
シドの迷いを捨てろ、と言う言葉にセシルは胸に鈍痛を覚えた。思えば今の自分は、迷うことしかできない。指揮官たる者が迷いを抱いて良いのか・・・?とにかく一つの仕事を終えたセシルは次の仕事に取りかかる。暗黒騎士の出撃の準備を整えなければならない。
セシルが暗黒騎士団の兵舎に足を踏み入れた時、彼は暗黒騎士として異様なまでの暗黒の力を感じ取った。恐ろしく殺気立っており、まがまがしい。ここまで悪意むき出しの暗黒の力を発する様な暗黒騎士がいるとは…。セシルでさえ、圧倒されてしまいそうだ。思わず剣に手をかけ、身構える。
「誰だっ?!」
セシルは思わず言った。それと同時に暗黒の力を集中させる。相手はろうかからゆっくりと近づいてくる。まるでセシルに恐怖を与える様に。そしてろうかから姿を表したのは、一人の暗黒騎士だった。見るからに重厚そうな暗黒騎士用の甲冑を身につけ、自身の暗黒の力を具現化した様な漆黒のマントを翻したその姿はまさしく暗黒そのものである。その暗黒が、セシルに言った。深い暗黒の中に引き込まれる様な声で。
「そう殺気立つな。私もお前と同じく忠実なるバロンの兵だよ・・・?」
「お前は・・・?」
セシルは見知らぬ暗黒騎士に問う。
「名を、ゴルベーザという・・・。随分腕が立つ様だが、迷いがあっては腕も振るえまい。迷いは捨てる事だ、セシル。」
「!なぜ、名を・・・?!」
そしてなぜ、自分に迷いがある事が分かるのか?ゴルベーザは、それには答えず、暗黒騎士団の兵舎を後にした。これでまたセシルの迷いはひとつ増えた。セシルは兵舎へと急いだ。
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