第3話 集結
タイクーン城から東に約1キロの軍港
風の神殿からタイクーン城までは、道が整理されていたが、それでも到着までに3時間もの時間を要していた。整理されているとは言っても、木を切り倒し、その地面をならしているだけである。城に到着した一行は事の顛末(てんまつ)を話し、大臣達にウォルスへの援助の賛成を求め、さらにこの軍港までやって来たのだ。
それはさておき今一行は、タイクーンの軍艦に搭乗している。しかしそれは軍艦と言うより、海賊船の様な外見だ。彼らが軍艦に搭乗しているのは、タイクーンの大臣達がウォルスに対する援助に賛成したからに他ならない。もっとも反対意見も多々聞かれたがそれらは、レナとファリスの猛反撃の前に撃沈する他なかった。また、2人を援護する人物もいたため、結果は4人が望む形となった。2人を援護する人物とは、宰相のゾックである。30年以上前からタイクーンの政治に深く関わってきた人物であり、宰相としての手腕は古くから近隣諸国はもとより大陸中に知れ渡っている。まさしく彼は、逸材と言って良い人物だ。そんな彼が王族の2人の肩を持ったのだから、反対派も賛成派になるしかなかった。
そのようなやりとりがあって、4人は今出航を目前に控える事が出来た。ちなみに、この船に乗っているのはバッツら4人だけではない。約30人のタイクーン海兵隊も同乗している。しかし彼らは、海兵隊と言うより海賊に近い風貌である。海兵隊、と言うより正規軍なら身につける装備が統一されているはずだが、目の前にいる兵士達は正規軍にもかかわらず各々格好が全く違った。大体腰には剣の代わりに数本の短剣と言う格好で、鎧兜と言った重装備をせず、胸当てや肩当てだけと軽装備である。それを不思議に思いバッツはその事を、ファリスに聞いてみる事にした。ファリスが最も海兵隊と親しそうにしていたからだ。
「なあ。ここにいるタイクーン兵はなんでみんな服装や装備がまちまちなんだ?」
その質問に対してファリスが得意げに答えた。
「そりゃぁ、こいつらは皆元海賊だからさ。俺も含めてね。」
は?と聞き返すバッツ。バッツは自分の耳を疑った。
「そこまで驚かなくたっていいだろ?で、俺はお頭だったんだぜ。すごいだろ?」
「なあ、なんで王族が元海賊で、しかもお頭だったんだ?」
ファリスは目を閉じて、思い出話でもする様に語り始めた。
「色々あってな・・。俺は小さい頃海難事故で海賊に拾われた。王族から海賊へと変貌さ。けど、その生活の中で、自分が不幸だなんてものの一度としてなかった。でないと、今の俺はいなかったからな。俺はこれで満足さ。」
「ふぅん・・・。いろいろワケありなんだな。」
「そういうバッツはどうなんだ?」
バッツは少しの間をあけ、言った。
「俺は、小さい頃に母を亡くして、親父と一緒に暮らしたんだ。そんなんだから剣の稽古ばっかなんだな、俺の幼少の記憶は。けど、優しい親父だったなぁ・・・。
まぁ、その親父も3年ほど前に病死しちまって、今じゃボコと旅の日々さ。」
ファリスは頷きながらバッツの話を聞くと、言った。
「お互い色々、だな。」
そこに一人の老人が現れた。あごに立派なひげを蓄えた老人である。彼こそ、タイクーン宰相ゾックその人である。ゾックは、2人に一礼し出航の準備が整った事を知らせた。
「サリサ様、艦の出航準備が整いましてございます。いつでも出航が可能であります。」
満足げに、ファリスは頷き言った。
「よしっ!出航だ!」
威勢良くファリスが言った。それと同時に、船の先端からすさまじい勢いで水柱が立つ。水柱が収まった海面には、一匹の巨大なドラゴンが顔を覗かせていた。
「な、なんだ!こいつはっ!」
「これはまたなんと大きな・・・!」
バッツとガラフは目の前に現れたドラゴンの姿に驚愕した。二人に驚く姿を見て、ファリスが我がことのように自慢してみせた。
「ご紹介しよう!海竜シルドラだ。俺の海賊時代からの相棒さ。シルドラにはこの船の推進力になってもらっている。水棲モンスターも、こいつにはビビッて手も出してこない。」
言うとファリスは、シルドラに任せたぜという視線を送った。それを読み取ったシルドラは、任せろと言わんばかりにファリスに視線を返し、唸ってみせた。元々海竜は、凶暴で人間と信頼関係を築くことなどまずない。しかし、シルドラは違う。ファリスと船員たちとシルドラはともに数々の修羅場を潜り抜け、その度に仲間としての一体感を増していった。そんなシルドラだから、ファリスやレナ、船員たちには実に忠実に守る。
ゾックは、出港準備に取り掛かっていた自分の部下たちに指示を出し、下船させていった。ゾックはバッツら4人に近付き、健闘を祈る言葉を送った。
「バッツ殿、ガラフ殿、おふた方をよろしくお願いいたします。レナ様、ファリス様も無理をなされてはなりませぬ。くれぐれもお気をつけください。特にファリス様は無理が過ぎますぞ。」
ゾックの言葉に、笑ってごまかすファリス。心当たりがあるからに他ならない。彼女もレナの無茶を指摘出来ない。さすがにファリスもゾックにはかなわないらしい。こういう時は年の功が物を言う。
「わ、分かったよ。無理はしないと約束する。ちゃんと戻ってくるからさ。」
「では、そのお言葉を信じさせて頂きますぞ。」
言うとゾックは下船した。これで後は船長であるファリスの号令を待つのみである。
「出航だ!目的地はウォルス首都!」
「オオ〜!!」
ファリスの声にも負けぬ程の部下達のかけ声が、小さなタイクーン軍港に響いた。船はシルドラに牽引され、どんどん加速していった。