第1話 戦火

午前9時25分 フィガロ城西の砂漠

 フィガロ砂漠を行く一隊があった。それはダムシアンから脱出した軍勢だった。脱出当初約1400人だったダムシアン軍だが、バロン軍の追撃、砂漠に潜むモンスターの前に約200人もの命が散っていった。

 そして、戦い続けたダムシアン兵達は心身ともに限界だった。 心身ともに限界の状態であるダムシアン兵達をまるで狩りでも楽しむ様に追撃する3000人のバロン兵達。 それらからギルバードを守るため、疲れ切った兵士らを指揮する1人の男がいた。

 ビリー・ディグテッド近衛少将である。生き残った全ダムシアン兵の司令の様な存在だ。

 「数では向こうが勝っている!散り散りになるなっ!」

 ビリーは言うと、すぐに剣を抜き、自分も敵の攻撃に備えた。

 敵はバロン軍だけではない。モンスターも自分たちの命を狙う敵だ。2つの敵に備えて彼は剣の抜く。

 「ビリー・・・。僕らは無事にフィガロ城に行けるだろうか・・・。」

 ビリーの後ろから弱々しい声で話しかける者がいた。 ダムシアン王子、ギルバード・クリス・フォン・ミューアである。 元々体が弱く、砂漠という過酷な環境を3日間も休むことなく歩いてきたのだ。 ギルバードは疲労の色を隠せないでいた。ギルバードの顔色は蒼白だ。彼の顔色が暗に疲れのひどさを示していた。

 ギルバードにビリーは気を遣い、言う。

 「ご安心下さい。我々はここであのような野蛮な者共の前に倒れるつもりは毛頭ありません。それに、私たちに何が起きても、あなただけはフィガロ王の元へ無事にお送り致します。 それが亡き王と王妃の願いであり、近衛兵である私の務めです。」

 ビリーの強い語気に、安心したのだろうか。ギルバードは静かに頷いた。

 ビリーはそれに満足すると、周りの兵をまとめ、最前線へと赴く準備をした。 いつ敵が突破してきても、おかしくないからだ。

 「いいかっ!抜かれるな!後がないと思えっ!!」

 ビリーの強い言葉に答える様に、周りの兵士達も怒号に近い返事を、彼に返した。
 
 両軍の激突する最前線では一進一退の攻防戦が繰り広げられていた。 ダムシアン兵の剣がバロン兵の命をかき消す。仲間が討ち取られたことに怒り、闇雲に剣を振り回すダムシアン兵。 数で敵を押し切ろうとするバロン兵達。単騎で敵陣に突っ込み、突破口を開くバロン兵。

 剣のつばぜり合いの音、断末魔の叫び声、怒号が砂漠の戦場に響く。一進一退の攻防戦にケリを付けるため、ビリー率いる近衛隊の50人が最前線にあがってきていた。  

 「邪魔だぁ!」

 ビリーは行く手を阻む1人のバロン兵に容赦なく剣を振り落とした。

 「続けっ!友軍を援護するぞっ!!!」

 ビリーは自分の部隊に指示を出す。彼の部下達にも容赦なく襲いかかるバロン兵ではあったが、近衛隊はそれらを軽く上回る 実力を持っていた。ダムシアン王国近衛隊はときに、襲いかかるバロン兵をねじ伏せながら、ビリーに続く。

 ビリーも部下達に負けじと剣を振るう。 ビリーらの活躍が、ダムシアン兵らを刺激し奮闘、バロン軍は次第に勢いを失っていった。

 それに焦ったのか、いらだったのか、バロン軍の指揮官が自分の護衛隊を率いて最前線に上がってきた。 ここで一気にたたみ込みたいらしい。
 これにより、ダムシアン兵の数は次第に減っていった。そしてビリーの身にも危険が迫っていた。
 
 彼が1人のバロン兵と斬り合っていたそのときだ。突然右足に激痛が走る。砂漠に生息するサソリのモンスター、 デザートソーサーが彼の右足を深々と刺していた。痛みと同時に毒が右足に走る。

 「ぐぅっ!」

 右足に激痛が走り、うなるビリー。そして隠しがたい隙が彼にうまれた。 そこに彼と斬り合っていたバロン兵は容赦なく剣を振る。

 「覚悟!」

 「これくらいでっ・・・!」

 ビリーは敵の必殺の一撃を自分の剣で受け止めたがしかし、毒におかされた右足に過度の負担をかけてしまった。ビリーは足に更なる激痛を覚えると同時に、砂漠に倒れていた。

 「これで、終わりだ!」

 バロン兵は剣を高々とかかげ、ビリーの心臓めがけて振り落とす。
 ここまでか・・・。無念と思いつつビリーが覚悟を決め、潔く最期を迎えようとしたその時だった!!

 「があっ!」

 ビリーを追いつめた兵士が悲鳴を上げ、倒れたのだ。 ビリーが目を開くと、チョコボにまたがり両手に剣を持つ1人の騎士の姿があった。豪奢な装備、先ほどバロン兵を 一撃で葬った長剣。その姿は見る者に、並々ならぬ威圧と並々ならぬ闘志を与えていた。

 「私はジェフリー・マクラウド!!我が王の命により、あなた方をお助けに参った!」

 その名を聞いて、ビリーは、ハっとした。 ジェフリー・マクラウド。数々の戦場で鬼神の如き戦いぶりでその名をひろめた騎士である。 フィガロの隣国の、ダムシアンの将校ならば、ジェフリーの名を知らないはずがない。

 ビリーは何とか体を起こし、緊張に近い物を感じて、応答する。

 「た、助かりました・・・。 」

 「いいや、助けるのはあなただけではありませんぞ。」

 「??」

 ジェフリーの言葉に、頭の上に幾つもの疑問符を浮かべたビリーだが、すぐに言葉の意味が分かった。

 「フィガロ軍が・・動いてくれたのか・・・!」

 ビリーが周りを見回すを、バロン軍相手に戦うチョコボ騎兵の姿があった。それも1人2人のレベルではない。 見回すとフィガロ軍がバロン軍を蹴散らしていた。 数こそバロン軍が上だが、兵士の個々の実力は明らかにフィガロ軍の方が上だ。 1000人そこらの戦力差のハンディキャップなど、フィガロの猛者達にとっては取るに足らぬ些末なことだ。チョコボの高い機動力と、それに騎乗するフィガロ兵の剣や、槍の前に、バロン軍は逃げるか、餌食になるしかなかった。
 フィガロ軍は、バロン軍に対してファランクス(密集方陣)という隊形をとり、サリッサ(約6mの長槍)を持ち、突撃した。

 砂漠にチョコボ騎兵が駆ける。狙いは寸分の狂いもない。 チョコボ騎兵が、逃げ惑うバロン兵に容赦なく牙をむけた。

 「ぐはぁ!」

 「ぎゃー!」

 「がぁっ!」

 フィガロ兵のサリッサに串刺しにされた多数のバロン兵は、 のどが張り裂けんばかりの大声で悲鳴を上げることしか出来なかった。 チョコボの高い機動力と、非常にリーチが大きいサリッサの前に、バロン兵はことごとく倒されていった。 抵抗するバロン兵もいたが、チョコボの上の兵士には攻撃は届かず、その上機動力が高いから、 すぐに決着が付く。あるバロン兵は反撃するも一撃の元で倒され、またあるバロン兵は脱水症状を引き起こし その場に倒れ、またあるバロン兵はモンスターの毒に倒れ・・・。

 戦闘が始まってから30分ほど経ち、バロン軍は退却していった。

 多くの兵士を失ったことと、最前線にでていた指揮官が護衛の兵士ごと討ち取られてしまったからだ。

 戦いが終わると、ジェフリーはすぐに部下達に命令を下した。

 「ダムシアン兵達をチョコボに乗せて、城まで帰るぞ。それから、城から持ってきた水と食料を与えてやれよ!」

 フィガロ軍が水と食料を持っていったのは、他ならぬエドガーの指示があったからだ。 フィガロ兵らは、ジェフリーの命令を聞くと、ダムシアン兵らに水と食料を分け与える。 ダムシアン兵らは、配られた水と食料を瞬く間にたいらげていた。

 ここ3日、飲まず食わずで追撃から逃げてきたのだ。のどは渇くし、腹は減る。ダムシアン兵らの体から、激戦の疲れが体の芯からとれていった。

 部下達が水と食料を分け与えている時、ジェフリーはギルバードを見つけ、事の経緯を聞いた。

 なぜダムシアンが攻撃されたのか、ジェフリーはそこに疑問を持っていた。

 「もし良ければ、なぜ戦いが起こったのか、お話していただけないでしょうか?
 辛かろうとは思いますが・・・。」

 その質問に対して、ギルバードは答えた。

 「それが全く分からないのです・・・。皆目見当が付きません・・・。」

 ギルバードは、消え入る様な声でジェフリーに話した。 ギルバードが疲れているのは、砂漠を休まず3日間歩いただけではなかった。 目の前で、父と母を殺され、自分をかばって多くの兵士が死んでいったのだ。精神面での疲れの方が遙かに大きいだろう。

 ショック状態に陥っているギルバードに代わって、ビリーがジェフリーの質問に答える。 モンスターの毒におかされた彼だが、常備していた毒消しで解毒したため、今は身体に異常はない。

 「どうやら彼らは、ダムシアンの有する火のクリスタルを欲していたようです。
 そのため攻撃したのでしょう。恐らく火のクリスタルはバロンの手中にあるのでは・・・・。」

 「なんですと・・!」

 ジェフリーはクリスタルと言う言葉を聞いて驚愕した。 それはこの世界の繁栄を支えてきた、エネルギー体だ。 だが、単にエネルギーを生むだけではない。時に戦争をも生み出すものだ。 その膨大な力を欲した者達が後を絶えなかったが故、
 醜い争いが幾度となく繰り広げられたのだ。 今回の侵略行為が、クリスタルを狙っての事なら、まさにクリスタルが生み出した戦争といえる。

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