第2話 クリスタルの戦士達
約30分後 風の神殿4階
最上階を目指す3人の前に、モンスターが立ちふさがるのは、これが初めてではなかった。2階や3階ではそれほどモンスターは居なかったのだが、上に上がるにつれてその数は増えていった。何より、神官長に話ではこの神殿に侵入したモンスターは1匹だけのハズだが、目の前には鷲づかみに出来るほどのモンスターがいた。
「この!」
バッツが怒号の様な声を上げ、アイアンソードを振るう。
迫り来る巨大な蛇型のモンスター、ホワイトスネークはよける間も与えられず、体を二分された。白い巨体は2つに分かれ、血を吹きだし、床をのたうち回った。それに忌々しさを覚えたバッツは、自らが二分したホワイトスネークを思い切り踏みつぶした。
さらに迫るモンスター達。卑怯にも、バッツの後ろを狙うゴブリン。卑怯な手ではあるが、頭の悪いゴブリンにしてはよく考えたものだろう。
「ギ〜!」
ゴブリンが右手の棍棒を振り上げ、バッツの背を狙う。しかし・・・。
「卑怯なっ!」
ガラフの一撃。バッツに向かって突進していたゴブリンはガラフの一撃の下に葬り去られた。
「すまないっ!」
ガラフに感謝しつつも、バッツは、目の前のモンスターを真っ二つに叩ききっていた。
「なんで、こうもモンスターがっ!」
レナが絶叫にも近い声を上げた。人間のいる建物にこれ程のモンスターが入り込んだのが信じられないのだ。しかし、それでもレナは冷静にモンスターと戦っていた。3人の中で最もめざましい活躍をしていると言って良い。少女のあどけなさを微塵も感じさせない、鋭い剣裁き。それ程レナの決意は固いのだ。こんな所で立ち止まる訳にはいかないと言う気持が剣裁きに現れていた。
はやる気持ちを抑えつつも、レナは冷静に剣を振るう。それをバッツとガラフがサポートする。
「みんな、こっちよっ!」
レナは周りのモンスターを一掃すると、2人に向け、言った。
レナが目指すのは5階に続く階段。後もう少しでクリスタルの間に到着出来るのである。レナは駆け抜け、階段を目指す。後の2人もレナに続く。襲いかかるモンスターを切り伏せながら。
3人は階段を全速力で上る。石造りの階段は幅が非常に大きく取ってあり、3人が横に並んで走っても、まだかなり余裕がある程だ。その階段を駆け上がる3人を、モンスター達が追わないはずがなかった。自らの敵をただただ追いかけるのみ。そして、戦い、それに勝つ。モンスターがこの地上に現れた時より行ってきた事だ。この風の神殿に入り込んだモンスターも、その例外ではない。ただただ3人を追うのみ!
だがしかし、モンスター達は5階に上がる事が出来なかった。急に退き始めたのだ。
「なんだ??あいつら・・?」
バッツは少々息をあげながら言った。その疑問にはレナが答えた。
「クリスタルが、自然の障壁になってるのよ。クリスタルの持っている力をモンスターは嫌うみたいなの。もっともそれも、下級のモンスターにしか通用しないみたい。その上、5階にしかクリスタルの力が働かないの。」
「へえ・・・・。」
レナの言葉に、ガラフも納得したかの様に言った。
「言われてみれば、この階には他とは違う雰囲気を感じる・・・・。心が落ち着くというか、何というか。モンスターはこの静寂さが嫌いなのかのぅ・・・。」
「けど、アレだけは別の様だぜ?」
バッツは言うと、人差し指をある方向に向けた。その先には、鷲の様な巨大なモンスター。図体の大きさだけでも、ゴブリンの様な下級モンスターでない事が分かる。
ウイングラプター。巨大な鳥形のモンスターだ。肉を好んで食べる。人間などは、ごちそうの部類に入るだろう。
「どうする?」
バッツは他の2人に意見を求める。
「言うまでもない。行く手を阻むなら、やるしかあるまい。」
とガラフ。
レナもガラフと同じである。
「行きましょう。」
レナが力強く言った。バッツはそれに頷き、腰の剣を抜いた。他の2人も、バッツと同じように剣を抜く。
そして・・・。
「行くぞ!」
唸りをあげ、突進するバッツ。ウイングラプターの注意を分散させるべく、レナとガラフも左右からウイングラプターに迫る。
「ググゥ・・・。」
ウイングラプターは、3人の姿を認めると不気味な唸りをあげ、巨大な翼を広げた。巨大な体を地の戒めから解放する巨大な翼。それが全開。そして一気に羽ばたいた。
「うわぁっ!」
バッツが叫んだ。ウイングラプターの起こした風は、人を吹き飛ばす程の突風であった。左右から迫るレナとガラフを軽く吹き飛ばし、正面から迫るバッツも吹き飛ばされる・・・ハズだった!
何とバッツはウイングラプターが風を起こす寸前に、床にアイアンソードを突き刺し、その場に踏みとどまっていたのだ。
「なんてヤツだッ!」
バッツは言いながら、先の突風で壁にたたきつけられた仲間達を見やった。ガラフは剣を杖代わりにして、レナは激痛に顔をゆがめながらも、立っていた。それを見て、安堵したバッツに、わずかな隙が出来た。そこをウイングラプターは見逃さない。
「バッツッ!危ないッッ!!!」
レナの悲痛な叫び。2人を見て、振り返るバッツ。そこにはウイングラプターの鋭く、巨大な爪。どんな獲物でも捕らえてしまうであろうウイングラプターの爪はバッツの命を狙う。
「!!」
バッツは声にならぬ悲鳴を上げる。誰もがバッツの死を心の中に描いた。
しかし、バッツは体を反らせ、紙一重の間隔で、爪を避け、横にはねる。この動作は、彼が父から武術を教わったが故だろうか?それだけではない。
バッツの意に反して、彼の体が動いたのだ。それも目にもとまらぬ速さで。
「バッツっ!」
叫びをあげ、再び剣を持ち、駆けるレナ。それに呼応するかの様に、ガラフもレナと同じ動きを取る。
「くらえっ!」
バッツは言うと、アイアンソードを持ち直し、ウイングラプターに突進する。速い。目にもとまらぬ速さで、バッツはウイングラプターで迫る。眼前に敵の懐。バッツはそこを、剣で突くのみ!!
「グジャァーーーー!!!!」
ウイングラプターは、叫びをあげ、体をばたつかせた。隙だらけだ。
「今だっっ!」
そこに、接近していたレナとガラフは容赦なくウイングラプターに剣を振り下ろす。刹那、鮮血が飛び散る。直後、ウイングラプターは全く動かなくなった。
「な、何とかやったな・・・。」
緊張感を欠いたバッツが言った。流石にバッツも肝を冷やしたのだろう。体をじっとりと覆う冷たい汗。ウイングラプターを仕留めた途端に、彼の精神を先程まで支配していた緊張感がすっかり抜けてしまった。そのバッツに、レナは先程の事について質問した。ウイングラプターの爪を避けたあの絶妙な動きのことだ。
「バッツ。あの一撃をなぜかわせたの??あの動き・・・・。とても速かったわ。」
レナが頭上に幾つもの疑問符を浮かべながら質問した。しかし、バッツは明確に答えられなかった。
「俺にもよく分からない・・・。ただ、普段じゃあ、あんな動きはとれないからなぁ・・・。火事場の馬鹿力、か?」
バッツにも、なぜあの様な動きが取れたのは、分からなかった。これは何かの潜在能力だろうか・・・・・・?
バッツは考えてもどうにもならないと思い、別の話を持ち出した。
「とりあえず、モンスターはもういない。最上階に急ごう。」
「そうね。急がないと・・・。お父様がそこにいると思うんだけど・・・。」
バッツとレナのやりとりをよそに、ガラフは目の前に巨大な扉の姿を認めた。
見るからに重厚そうで、立派な作りである。この奧に風のクリスタルが安置してあるのだろう。ガラフは、レナに聞いた。
「クリスタルは、この先かの??」
レナが答える。
「ええ。この扉の先に風のクリスタルがあるわ。世界の風を司るモノが・・・。」
「それにしても立派な扉じゃが、全く動かんぞ。」
ガラフは扉を押したり引いたりするが、扉はビクともしない。
レナはクスリと笑い、言った。
「それはそうよ。この扉は王家代々伝わるペンダントを持つ者でない限り開けるどころか、動かす事も出来ないわ。」
言いながら、レナはペンダントをバッツとガラフに見せた。輝く銀の縁に、タイクーンの深い森を封じ込めた様な緑色の石。
「これが、王家代々伝わるペンダントか・・・・。」
バッツが言う。宝石などには興味がないバッツだが、ペンダントの完成度の高さに思わず感嘆する。ガラフもバッツと全く同じ目で、ペンダントを見つめていた。レナはペンダントを手に取り重厚な扉の前につきだした。
その途端、ペンダントの宝石が淡い光を放ち、扉を包み込んだ。
そして音を立て、ゆっくりと扉が開いた。
「さぁ、行きましょう。」
レナは言い、2人を先導するように、扉の向こうへと歩いた。果たしてクリスタルは無事なのか??タイクーン王は無事か?
答えは全て3人の進む先にある。