第2話 クリスタルの戦士達

1時間後 タイクーンの森 風の神殿

ときには、モンスターが3人と1羽の行く手を阻んだが、彼らの敵ではなかった。バッツはこれまで何度もモンスターと戦った事があるし、レナも一応剣術を身につけていたから、モンスターなど何の驚異にもならなかった。そして意外なのが、ガラフの剣の腕である。3人の中で最も腕がよいと言ってよい。しかし、その優れた剣の腕が、ますます謎を深い物とした。ガラフは一体何者なのか・・・・・?そんな事を思いながら、歩いていたバッツの意識を現実に引き戻したのは、レナの声だった。

「見えたわ。あれが風の神殿よ!」

3人と1羽の前には、1つの建物が静かにたたずんでいた。風の神殿である。タイクーン建国以来ここにあり、風のクリスタルを最上階に安置している神殿だ。風のクリスタルが安置してあるだけの事はあって、外見は非常に立派だ。そして、風のクリスタルを安置してあるだけの事はあり、タイクーン兵らが、神殿の門の前に立っていた。

4人の門番の内、1人が一行に歩み寄り、レナに一礼した後、驚きながらも言った。

「姫様が、なぜこのような所に!城の者は皆目を皿にして、あなたを捜しております!今すぐ城へお帰り下さい!」

門番は強い口調で、レナに城に帰る様に言った。

レナが城を抜け出したことは、風の神殿にまで知れていたのだ。しかし、だからと言って引き下がるレナではなかった。

「私は、お父様が心配でここまでやって来たの!ここまで来て、帰れるはずないでしょ!」

決死の思いでここまで来た自分の気持ちがなじられた様で、レナは反論した。レナの勢いに押されたのか、門番は黙りこくってしまった。

そこにさらに、レナが言う。

「それより、お父様は?城を出られたときに乗っていた飛竜も見あたらないけど・・・?」

「それが、2日前から陛下が神殿の中から出てこられないのです。更に、今神殿の内部はモンスターが住み着いております。陛下がここに来られるほんの少し前に、巨大なモンスターが神殿を襲ったのです。私たちが陛下にそのことをお話すると、1人で神殿に入る、とおっしゃいまして・・・。飛竜も突如慌て、どこかに遠くに飛んでいってしまいました。止めはしたのですが、4人ではそれができず・・・。申し訳ございません。」

「そんな・・・、謝らないで。」

状況を理解したレナは、ある1つの考えを実行に移す事にした。

「私たちが、神殿に入るわ。最上階にどうしても用があるの。」

その申し出を、兵士が認めるはずがなかった。レナ1人に対して、4人の門番全員が、一斉に反対し始めた。しかし、4人が束になってかかっても、レナを抑えられるかどうか・・・・・。これは、弱小国がガストラ帝国の様な強大国を滅ぼす位に難しいだろう。いや、それ以上である。

「しかし!あなた様の身に何かあれば・・・。」

「この神殿に入り込んだモンスターは、私たち兵士ですら歯が立たなかったのですよ!」

「どうかおやめ下さい。到着は予定より遅れてはおりますが城の兵士を呼んでおきました。その後からでも、陛下の安否やクリスタルの無事は確かめられましょう・・・?」

「それに失礼ながら、お連れの方々の身元が分かりませぬ。このような事は申し上げにくいのですが、あなたの身を狙っているのかも知れませんぞ。」

さすがにこれには、バッツも堪えきれなくなったのだろう。怒りに震える声で4人を圧倒した。

「俺は、森で倒れていたレナを助けたんだ!人を助けるのに身元とか、そんな事関係あるか?!それにレナは、自分の父が心配でたまらず城を抜け出して、この深い森の中を歩いてきたんだぞっ!!」

バッツの言葉に同調したのか、ガラフは他の2人の援護をする。

「バッツはその様な事をする若者ではないよ。でなければ、ワシの様な老いぼれや、レナの様なか弱いおなごはあんたらの前には居なかっただろうよ。ここまで来るのに、数え切れない数のモンスターを倒して来れたのは、ひとえにこのバッツのおかげじゃ。」

ガラフの言葉に、兵士の1人は驚いた。

「この界隈にそれほどのモンスターが潜んでいるはずがない!」

その言葉にも、ガラフは全く動じなかった。ガラフも、兵士の脅しに負けじと、語勢を強めた。

「ではなぜ、ここを目指す城の兵士達は遅れておるのかのぅ・・・?彼らの到着が予定よりも遅れているのはモンスターのせいではないのか・・・?」

「・・・。」

ガラフの厳かな語勢での話は、兵士の先程までの勢いをなくしていた。ガラフの話がウソとは思えなかった。だがしかし、門番らは扉の前からを退く事はなかった。バッツ達の前にそびえ立つ壁の如く。

「何にしても、ここから先は一歩として通す訳にはいきませぬ。」

それでも退かない兵士達。

その膠着状態を打開したのは、意外な人物だった。

「お主ら、もうやめよ。」

「!!神官長様・・・。」

扉の向こう側から現れた人物、それはこの風の神殿の神官長であった。神官の長でありながら兵士をも従えてしまうのだから、事実上はここの最高責任者の様な者である。

「お主らも、もう良かろう?このお二人は、襲いかかるモンスター達からレナ様をお守りして下さったのだぞ??その方々に、なんたる無礼か。」

意外なところから現れた、意外な人物の援護により、4人の門番らは進退窮まってしまった。そして、神官長は門番が打って出られないのを確認すると、3人を風の神殿に招き入れた。バッツは神官長に感謝しつつも、ボコにここで待っている様に言い、先に神殿に入っていった3人の後を追った。

「申し訳ありませぬ。ここにいる神官や兵士は皆気が立っておるのです。どうかそこをご理解頂きたい。」

神官長は3人を案内しながら、謝罪をした。それに納得した様にバッツ、ガラフ、レナの3人は頷いてみせた。彼らは今、極度の緊張状態にあるのだった。



石で作られたがっしりとした構造、神殿の物静かなイメージと合致する床、そこに敷かれたシンプルな絨毯。かなり古い建物ではあるが、今でも使われているだけあって、古ぼけてはいなかった。神殿の内側に流れるひんやりとした空気。それは何故か人の心を落ち着かせるものだった。

バッツら3人を導く神官長は、入り口の右にある部屋に3人を導いた。その辺りは何故か鼻を突く血のにおい。神聖な神殿にはおおよそ相応しくないものだ。そこには数人の神官、そしてその倍以上の数の傷を負ったタイクーン兵達。彼らは皆、激しい体の痛みを訴えた。

小さな兵舎の空気を支配する兵士の痛々しいうめき声。レナは驚いた様に、うつろな口調でささやく様に言った。

「これは・・・一体・・・?」

レナの問いに、神官長が答えた。

「この者達は、先日ここに入り込んだモンスターと戦って、この様なひどい傷を負ったのです。」

神官長は、静かに目を閉じ、言った。

何の前触れもなく現れたモンスターに、兵らは為す術がなかったのだ。少々の間をおいて、神官長がレナに向けて言った。

「レナ様、彼ら兵士が束になっても仕留める事が出来なかったモンスターです彼らの様な傷を負ってでも、モンスターと戦う覚悟はありますかな??」

神官長の言葉に、レナは答える事が出来なかった。クリスタルや父の安否を一刻も早く確かめなければならない。しかしそのためには、10人以上の兵士をいともたやすく蹴散らしたモンスターを相手にしなければならない。

自然と手が震えた。そして、冷たい汗が頬を伝った。

(怖い・・・・・。)

ただそれだけが、レナの心を支配した。しかし次第に、心を支配する恐怖をも拭いきる王族としての責任感と、父を心配する気持が彼女の恐怖を完膚無きまでに打ち消していた。

「たとえ何があろうと、私は最上階まで行きます!モンスターが立ちふさがろうと、体を引き裂かれようと、後には退きません!!」

恐怖を完全に断った声で、レナは言った。そしてそれに呼応する様にバッツが、ガラフが決意を固めた。

「よしっ!俺はレナと一緒に行く!俺もここまで来て引き下がるつもりは毛頭無いからな。」

とバッツ。そこにガラフがにやけながら、言った。

「とか言いつつ、本当のところはお嬢さんにホの字じゃないのかい??」

子供でもからかう様な口調でガラフは言う。その言葉にバッツは赤面しながら反論した。子供の様なリアクションだ。

「な、なに言ってんだっ!俺にはそんなこと・・・。」

バッツの反応が面白いのか、ガラフは次なる攻撃を仕掛けた。

「おおぅ?そんなこととは、どんなことかのぅ・・・?ぜひこのワシに教えていただきたいのう。」

この思わぬ反撃に、バッツは両手で口を覆い、赤面し沈黙するしかなかった。バッツと同じく顔を赤くしたレナが話を反らした。

「と、とにかく3人で最上階を目指しましょう。2人は私を守ってくれるわ。行きましょう。」

レナの言葉に、バッツは心の底から感謝し、ガラフは渋々と、バッツをからかうのをやめにした。そのやりとりを見て、少々心配した神官長だったが、彼ら3人を見送った。

「では、いってらっしゃいませ。私たちが確認している限りではモンスターは一匹だけであります。」

「分かったわ、ありがとう。必ず3人でここに戻ってくるわ。」

レナの言葉に神官長はありがたく思い、3人を見送った。

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