第2話 クリスタルの戦士達

3月8日 早朝 タイクーンの深い森の中


話の舞台はフィガロから、その隣国のタイクーンに移る。深い森の美しい国だ。

タイクーン王国。今は平和な国だが、約30年前までは戦争の絶えない国だった。 先代王が非常に好戦的で、近隣諸国に対する侵略戦争を立て続けに起こしていた。 しかし、戦乱で王が亡くなると、タイクーンはたちまち平和を重んじる国へと変貌した。 それは、王が死んだことと、国内で独立運動が起こったためだ。
 
タイクーンから独立した地の名は、ティンバー。 元々強大な軍隊を持たない(正確に言えば持てない。) タイクーンが長期にわたって戦争を続けられたのは、 地下資源が豊富に採れるティンバーを領有していたからに他ならない。 ティンバーから豊富に採れる地下資源が、タイクーン軍に莫大な軍資金をもたらし、軍備を増強していった。

しかし、そんな激動の時代にも建国以来唯一変わらぬ物があった。美しい森だけは、何も変わらずタイクーンの大地にあり続けた。

その森に異変が起きたのは、今から10分ほど前のことだ。いつもと変わらぬ、タイクーンの森の静かな夜明け。朝日が森を照らし始めたその時だ。

澄み切った青空から、タイクーンの森に一筋の光が降った。日光ではない。光の筋の正体は、なんと隕石だったのだ。

一筋の光が森に落ちた。刹那、耳を塞ぎたくなる様な轟音と、大地震、そして森に住む動物たちの悲痛な叫びが森の静かな夜明けを飾った。木々は倒れ、多くの動物が空から突然飛来した1つの隕石に命を奪われた・・・。


そして約10分・・・。
 

 「う・・・・・。」

 仰向けに倒れていた青年が、軽い頭痛を覚えながら、立った。頭痛の原因は、地震の際に頭を地面にぶつけたからだろう。 茶髪で肩当てをしており、腰には剣を差し、マントを羽織っている。防寒用であろう。 旅慣れた格好をしている。この世界ではどこに行っても大体、モンスターに出くわしてしまう。そのため誰もが、それなりの準備をする必要がある。

「一体なんだってんだよぉ・・・。」

青年は、まだぼんやりする目で、隕石の姿を認めると、1人ぼやき始めた。

「・・・まぁ、旅にはこんな事もある・・かな???」

青年はここ数年旅をしていた。家には自分を待っている家族が、もうこの世には居ないのがその理由だ。だが、それにしても、隕石が自分のすぐ近くに落ちる事もそうざらにある事ではない。たとえ世界中を旅していたって、こんな体験はまずできない。まぁ、もっともその方が身のためではある。

さて、青年は今自分が唯一家族と呼べる者の目を覚ました。チョコボのボコである。

「目が覚めたか・・・?」

「クエッ!」

仲間は、仲間の問いかけに元気に答えた。体に傷もない・・・と思われた。

「足にけがしてるな・・・。」

青年はボコの右足を見やった。傷ができ、血が流れ出ている。大した事はないが、タイクーンの深い森を歩くとなると、決して無視出来ない。

「待ってろよ、今治してやるからな。」

青年はいうと、ボコの鞍(くら)に付けてある袋に手を入れる。何かを捜している様だ。 そして、彼は捜している物を袋から取り出した。

 青年の手には1つの小瓶があった。ポーション。古くから伝わる良薬で、飲むと、軽い傷程度ならすぐに完治できるという優れもので、このポーションは、世界規模で普及している。旅人から、兵士にまで、家庭から病院まで使われている代物だ。

 「ほら、ポーションだぞ?」

 タイクーンの空を封じ込めた様な、青く、美しく澄んだ無味無臭の液体が、ボコの体に入ってゆく。
 そして、効果はすぐに目に見える形で現れた。ボコの右足の傷は瞬く間に塞がり、完全に傷をないものとした。  青年が、ボコの傷が癒えたところで、ここから出発しようとした。だがその時・・・。
 
「誰か・・・、誰か助けてっ!」

 耳に飛び込んできた助けを求める声。その声を聞くと、青年は反射的にボコに飛び乗り、駆けた。そして目に飛び込んできたのは、1人の少女を連れ去ろうとする、3匹のモンスター。

ゴブリン。

その姿は全体的に人間に似ているしかし、頭の中身は、人間にはほど遠い。

ゴブリン達は人間の姿を認めると、すぐさまその方へ走っていった。連れ去ろうとした少女を置いて。このへんが、人間とゴブリンの頭の出来の違いである。

バカだ。青年は腰の剣、アイアンソードを抜くと、ボコにまたがったままゴブリン達に迫る。

「くらえっ!」

叫ぶやいなや、青年はアイアンソードを自分に近づくゴブリンに振った。

「グギッ!」

ゴブリンは、一撃を胴にまともにくらい、鮮血を辺り一面に散らした。命を落としたのは言うまでもない。チョコボを乗りこなす姿は、フィガロのチョコボ騎兵の様だ。

残る2匹は、そこらに落ちている木の棒を拾い上げ、猛然と青年に向かって走った。

だが、しかし・・・。

「どけっっ!」

青年もボコを走らせる。一撃。1匹のゴブリンを一撃で葬る。そしてそのままボコの向きをくるりを変えると、そこには生き残ったゴブリン1匹。

 「やあっ!」

 ボコが向きを変え、綺麗な円を描くアイアンソード。横薙。刹那、ゴブリンの首から鮮血が飛び散った。音を立て、ゴブリンは地面に倒れた。

「これで終わり、か・・・?」

モンスターを片付け、辺りを見回す。見えるのは、木々と巨大な隕石のみ。そして、倒れている1人の少女。

白く透き通る様な肌、淡い桃色の髪、女性らしい体つき。そして、少女には不似合いな剣。青年のそれと同じ、アイアンソードだ。

彼は、目のやり場に困ってしまった。

 (よくもまぁ、こんな子が1人でこんなトコまで・・・。)


 「ん・・・。」

 少女が目を覚ます。開かれた瞳は大きく、人の心を惹きつける様に見えた。

「あ、あの・・・。貴方は?」

青年は、名前を聞かれる。ここ数年、人から自分の名前を聞かれた事がなかったので、少々緊張してしまう。

「俺は、バッツ。バッツ・クラウザーだ。 こいつはボコ。旅のパートナーさ。」

青年−バッツ−は言いながら、チョコボのボコを指さした。

「クエ〜。」

ボコは挨拶でもする様に深く頭を下げる。お辞儀の様だ。

「そう・・・。バッツにボコ・・。私はレナ。あの、貴方が私を助けてくれたの?」

レナがバッツに問いかけた。

「ああ、まぁ、そうだけど。」

バッツは肯定する。

「どうもありがとう。あの時はどうなるかと思ったわ。この深い森の中で、人がいるとは思わなかった。けど、本当にありがとう。何とお礼して良いやら・・・。貴方は命の恩人ね。」

レナのその言葉に、バッツは答えた。少し顔を赤くして。

「そ、そんな。お礼なんていいよ。人がモンスターに連れ去られる所を見て助けない訳にはいかないだろ?普通のことじゃないか。」

早口になってしまう自分が少し情けなく感じてしまうバッツ。彼は話を反らそうと、別の話題を持ち出した。

「ところで、何でレナはここに・・・?」

「え・・。それ、は・・。」

バッツの質問に対して、たじろぐレナ。まずかったな、とバッツは思い弁解した。

「ごめんよ。言いたくないことを聞いちゃったかな?」

「いいえ、そんなこと・・・。あのね、実は、私は、タイクーン王女、レナ・シャルロット・タイクーンなの。」

「え・・・?・・・何・・?」

バッツにはその意味が良く理解出来なかった。言ってる事が意味不明だ。

「はっはっは、おいおい、冗談はよしてくれよ。」

バッツは言った。だがレナの目は真剣そのものだ。次第に意味が理解出来る様になった。そして、驚愕。目の前に王族がいるとは・・・。

「ま、まさか、城を抜け出したってのか???」

「実は、ね・・・・・。」

レナは元気なく頷いた。
「私の父(タイクーン王のこと)は、突然城をでたっきり帰ってこないの。だから私は心配になって、城を抜け出してここまで来たのよ。そうしたら、隕石が落ちてきて、それで気を失って・・・。で、さっき貴方に助けられたのよ。」

事の経緯を、レナはバッツに話した。思えば、王女であるレナには護衛の兵士がいなかった。無茶なことをする、とバッツは、心の中で思った。

「城の人たちは、レナを捜してるんじゃないのか?」

「そうね・・。そのハズよね。城のみんなは今頃私を捜してるわ・・・。だけど、私はどうしても風の神殿に用があるの。」

 「風の神殿?」

 「風のクリスタルを安置してある建物よ。」

 クリスタルの存在は世間によく知られている。しかし、それがどこにあるかは、よく知られていない。 バッツが、ふうんと聞き流そうとしたその時だった。

「ぬう・・・・。」

空耳か・・・?空耳にしてははっきり聞こえた・・・。バッツはレナに訪ねた。

「今、声が聞こえなかったか?」

「私にも聞こえたわ。」

ボコもキョロキョロと、辺りを見回す。どうやらバッツの空耳ではないらしい。そして、彼らは1人の初老の男を見つけ出した。男もバッツや、レナと同じく隕石の近くに倒れていた。タイクーンの兵士ではない事だけは分かった。タイクーン兵が身につける甲冑を身につけていなかったからだ。レナも目の前の初老の男を知らない。

バッツは見ず知らずの初老の男の体を揺さぶり、声をかけた。

「おい、じいさん。大丈夫かい?」

すると・・・。
「誰がじいさんじゃっ!!」

倒れていた男は、勢いよく立ち上がり、バッツの一言に対して反応した。

「なんて元気なんだ・・・。」

バッツは呆れた様に、つぶやく様に言った。だが、今まで倒れていたのだ。勢いよく立ち上がったが、すぐに座り込んでしまった。ケガでもしたのだろうか・・・?

「大丈夫かよ?」

バッツが心配そうに声をかけた。しかし、男の体は異常を来していなかった。ただ1カ所だけを除いて。

「頭が、頭が割れそうじゃ・・。ああ、記憶が・・・。何も・・・、何も思いだせん・・・!」

「記憶喪失、か・・・。」

バッツやレナには、人の記憶を取り戻す様な事など出来ない。2人はただ、男に対して同情の念を抱くしか出来なかった。

レナは、男に対して1つ質問した。一生涯忘れようのない自分の名前を。

「貴方のお名前は・・・?」

「・・・・・・んん〜。」

男は座り込んだまま、まだフル稼働しない頭の中で思い出そうとする。頭の中には、家族の姿が映る。かなりあやふやだが、男の持つ唯一の記憶がそこにあった。1人の少女が自分に声をかける。微笑みかけ、自分もその子に向かって微笑んだ。その少女は、男を呼ぶ。ガラフおじいちゃんと。

(誰じゃ、この子は・・・。思いだせんか・・・。我ながら情けない。)

ガラフは、悲壮な顔をしたが、レナの質問には答えられた。

「わしの名は、ガラフじゃ。」

「ガラフさんね。」

レナはガラフの名前に首をかしげた。

(どこかで聞いた事がある名前だわ・・・・。)

なぜか、引っかかるモノがある。この名を聞いた事があるのだが・・・・・。何よりこの深い森に防具を付けず剣一本でいるとは。謎は深まるばかりだ。2人はガラフと名のる男についてはこれ以上考えないことにした。不意に、ガラフは、もう1つ思い出した。なぜ、記憶を失ってまでここまで来たのかを。

「クリスタル・・・。そうじゃ!わしはこの国のクリスタルに用があるんじゃった!!お二人さん、ここの土地の人じゃったら、ワシを風の神殿まで案内してくれぬか?」

レナは驚いた。なぜクリスタルの在処を、この人が・・・。

謎は、ますます深まった。ガラフはなぜ、自分がクリスタルの在処を即答できたのか?その理由は当の本人にも分からなかった。全ては忘却の彼方、である。

「実は、私も風の神殿に用があるのです。私はレナ。タイクーンの王女です。」

「俺はバッツ。ただの旅人さ。ボコと一緒に旅してるんだ。」

2人はそれぞれ自己紹介をした。ガラフは、2人の名前を聞くと、立ち上がり、威勢よく言った。

「よぉし!それじゃあ、話は早い!ワシを風の神殿へ案内してくれ!」

ガラフの元気の良さに、2人は押されつつも

「じゃあ、行こうか。」

「私が案内するわ。」

 タイクーンの深い森の中を、3人と1羽は進んだ。風の神殿を目指して。

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