午前10時 プラボカ郊外
カイエン隊とアーバイン隊が戦っている激戦区から北東に位置する、第一兵舎。セシルは奇跡的に燃えさかる炎をかいくぐり、地上にはい出た。だがそれに、どれほどの時間と体力を費やしただろうか?それでもセシルは司令部に戻って指揮をせねばと、体にむちうつ思いで走る。が、しかし・・・。
「見ィツケタアァ・・・。」
「セ、シル・・・?敵カ?」
「ク・イ・モ・ノ・・・。アハぁ、腹二収メテヤルウ・・・。」
「なんだ・・・!」
疲れ果てたセシルの前に現れたのは、ルゲイエによって生み出されたモンスター達だった。曲がりなりにも言語を用いる事から、どうやら知能は先に地下室で戦ったものよりも高いようだ。全身の筋肉の、隆起も凄まじい。数は3。いずれもベースは暗黒騎士らしい。セシルとしては、彼らと戦うのは忍びない。モンスターになってしまったとは言え、元は直属の部下である。が、戦わねばセシルはここで確実に死ぬだろう。
相手は死ぬ事を恐れず、敵を殺す事を躊躇(ちゅうちょ)しない。加えて技量が高い。元来持ち合わせていた暗黒の力を大量の投薬と手術で底上げしたのだろう。3体のモンスターは分散し、セシルに迫る。速い。筋肉を異常なまでに強化されているが故、俊敏な動きをする。まず1体が、セシルに剣を掲げ、突撃する。剣を同じく剣で受け止めるセシル。振り払いつつ右に逃れる。すると更に横から別のモンスターが迫る。幾度もぶつかり合う剣。3体目が暗黒剣を放ち、セシルの背を討とうとする。
セシルは敵の剣をなぎ払うと、僅かに体を動かし、暗黒剣をかわす。そしてその代わりに、セシルと戦っていたモンスターが暗黒の波に攪拌された。血飛沫がセシルを染める。次々に放たれる暗黒剣。セシルはこれを上回る一撃で相殺、いや、敵の暗黒剣をも打ち消しなおも敵に迫る。よける間などない。
2体はほぼ同時にうがたれ、セシルの前に倒れる。セシルはきわめて強力な暗黒剣を放った直後で、疲弊しきっている。が、立ち止まってはならない。彼は枷を付けたかの様に重い足を引きずりながら、司令部を目指した。
時を同じくして、ベイガン隊の位置を中心に、セシルを襲ったモンスターが突如その姿を現し両軍を蹂躙してゆく。それらは勿論、ルゲイエの作り出したヒト型モンスターたちだ。突如現れた異形の戦士達は、悪魔に見えたに違いない・・・。
カインは出血しながらも、後方の救護本部にたどり着いた。救護本部は既にこの戦いによって生じた負傷兵で埋め尽くされている。救護本部が置かれている建物の前に来たところで、遂に限界が訪れた。力無く倒れ伏せ、更に出血する。どれほど血を出したろうか?
「流石に、限界か・・・。」
建物の外を使っても、おびただしい負傷兵に対応しきれない状況だ。カインはたちまち雑踏に飲み込まれてしまう。が、偶然とも言うべきか、ローザがカインを見つけ出した。
「カイン!聞こえる?!カイン!」
遅れて届くか細い声。
「・・・ローザ、か・・・?」
「そうよ、分かる?」
「ああ・・・、俺は運が良いな・・・。くっ・・。」
カインが重傷を負っている事をローザは察していた。もっとも傷は、ローザの想定の遥かに上をゆくものだったが。
「待ってて、今治すから。」
しかし、どうやって治すというのか?いや、ここからがローザの、白魔道士としての腕の見せ所だ。古文書の内容を詠唱すると同時に、ローザの両手に光が生まれ、光が次第にカインの全身に移ってゆく。ケアルラ。中級の回復魔法だ。カインの傷は瞬く間に塞がる。ケアルラは傷を塞ぎ、体力を回復させたがしかし、失われた血は戻らない。依然としてカインは苦しげに息をする。
「ありがとう、ローザ・・・。本当は輸血を受けながら安静にしておくべきだろうが、この状況ではな・・・。」
救護本部の多忙さを指している。更に責任ある指揮官が、部隊を放っておいて寝ていられない、という意思表示でもある。が、当然ローザはこれを却下する。
「だめよ!いくらあなたでも、今最前線に出たら間違いなく死んでしまうわ!」
「ならせめて司令部に・・・!ここで倒れるワケには・・・。」
「・・・・・どうしても行くの?」
「ああ、這ってでも行くぞ・・・。」
そう言うカインの目は、いまだ血の気が失せていない。
「分かったわ。じゃあ、じっとして。」
「?・・ああ。」
ローザはまた魔法の詠唱を始めた。今度は深紅の光がローザを包み、カインに光が巡ってゆく。白魔法・ドレイン。相手の体力を吸収し、自分の体力として体内に取り込む魔法だ。武術に秀でていない白魔道士が、武術に秀でた者に対抗するために生まれた、苦肉の策とも言うべき物だった。このドレイン自体、習得し、自在に使うのに高い技量が要求されるが、熟達している者は、自分の体力を他者に移す事が出来る。ローザがカインに行っている事は、正にそれだ。魔力に上乗せされたローザの血液が、カインの体を巡る。
「・・・これで大丈夫。」
ローザが言う。しかし、先程と比べて少々血の気が失せた様だが。
「ローザ・・・。」
カインがローザの名を口にしたその時、ローザが崩れる様にカインの方へと倒れる。受け止め、支えるカイン。
「カイン・・・。必ず、必ず無事で戻ってきてね・・・。」
遅れて戻るカインの言葉。耳元での会話。
「ああ、約束だ。」
カインはローザを抱きしめ、その後司令部へと赴いた。
ある者は単独で挑み、あえなく敵の攻撃に倒れ、またある者は銃で応戦するも、背後を突かれる。赤魔道騎士が数人で、一体のモンスターを袋叩きにする。ある暗黒騎士は暗黒剣で敵を一掃する。一歩。また一歩。守勢に立たされていたハズのバロン軍が、殺到していたウォルス軍を圧してゆく。
「ひるむなっ!前進!」
「態勢をたてなおすんだ!」
「退くな!退いたら敵の思うつぼだぞ?!」
ウォルス軍の指揮官達はしきりに部下に、この様に叱咤する。が、浮き足だった多数の兵士は、後退したり、逃げ腰となり、隊列が次第に乱れ始める。その乱れた隊列に生まれる隙間に、バロン兵が押し寄せる。これでもか、と言わんばかりに攻め立てるバロン軍。
しかし、戦況は二転三転して当然だ。勢いづいたバロン軍が、もっとも恐れていた事が、遂に起こった。