「お前の様なヤツは、絶対にのさばさせておけない・・・・。ここが貴様の墓場だ。」

温厚なセシルの口から出た言葉とは思えない。セシルは本気だ。ルゲイエは気圧されながらも背後に控える、稼働状態にある兵士に指示を下す。

「くっ、お前などに私は止められないのだ!ここで自らの部下に殺されるがよい!!ゆけっ!」

一体の兵士が猛然とセシルに襲いかかる。拳を振り上げ跳躍し、頭をつぶしにかかる。鉄拳を一歩退いただけで避け、暗黒の剣を振り落とす。篭手で防ごうとするが、間に合わない。がら空きとなった首に一撃を加えられ、倒れた。セシルは返り血を浴びながら、ゆっくりと歩を進めながら言う。

「今の様に、一思いに殺そうとは思わない・・・。最期ぐらい好きに選ばせてやる・・・。」

血を吸った様に紅いセシルの目。雪の様な白い肌にこびり付くどす黒い血。血塗れた剣。暗黒の力を身につけたがために、残虐性が怒りで姿を現したのか・・・。ルゲイエは恐怖に駆られ、退く。壁にぶつかる。もはや後がない。

「う・・・。だ、だが、今し方言ったハズだっ!お前に私は止められないと!私を殺す事も出来ない!」

「黙れっ!その口封じてやる!」

その瞬間だった。ルゲイエはポケットに隠してあった機械を取り出し、スイッチを押した。それは瞬間移動を可能とする、白魔法テレポをインプットした物だ。ルゲイエの姿は既にない。セシルはその時残虐性から本来の自我を取り戻した。結局地下室にゴルベーザの姿はない。が、地下牢にもう1人、ゴルベーザではないがルゲイエの他にいた。

「フフ、ルゲイエの作った出来損ないなど、時間稼ぎにもならんか。」

「何者だっ!?」

振り返るセシル。扉の前に立っていたのは、白いローブをまとった、包帯の男だった。スカルミリョーネである。

「我が名を知っても仕方あるまい。貴様はここで我がアンデットの餌食になるのだからな。」

言うと指を鳴らす。それと共にどこからともなく煙がわき出す。煙はすぐに収まり、そして煙から出でたのはおびただしい数のアンデットモンスター達だった。

言うまでもないが、そのアンデットモンスター達の元となったのは、連れ去られたバロン兵らである。優に10体はいる。ゾンビや、それの上位種に当たるグールなどが入り口を塞ぐ。

「貴様も暗黒騎士なら知っているだろう?アンデットモンスターに暗黒の力が効かぬという事を。

残念だよ。アンデットの暗黒の力に対する耐久力は他の比ではない。相手が違えば、さぞ素晴らしい暗黒剣技が見られた事だろう・・・。」

「くっ!」

舌打ちするセシル。迫るモンスター。スカルミリョーネは、扉を魔力でロックし、ルゲイエと同じくテレポでその場から消える。とにかく時間を稼がなければ・・・。セシルはそう考え、暗黒剣をアンデットの群衆に放った。

「暗黒剣!」

爆発的な勢いで、波動が群衆を飲み込む。しかし外傷はない。それでも少々動きが緩慢になった。もっとも、動く腐乱死体である彼らは、もともと動きが緩慢だが・・・。セシルは何かないかと、部屋を見渡す。目に偶然は入り込んだのは、鼻を突く様な異臭の原因だった。

(あれは・・・まさかっ!!)

セシルは部屋の左右の棚にホルマリンと書かれたラベルのビンを大量に見付けた。壁の高さ一杯に作られた棚には、所狭しとホルマリンが並んでいる。更に床に放置されていた、長い鎖を使い、ホルマリンのビンを叩き割り、床をホルマリンの海とする。何故ホルマリンをばらまくのか?それは勿論アンデットモンスター達を倒せるからだ。

ホルマリンの原料は、メタノールである。メチルアルコールとも言う。その名の通り、アルコールの一種だ。メタノールは、普段はアルコールランプの燃料としてしか使わないが、それを原料とするホルマリンは防腐剤として使われる。あらかたルゲイエが使っていたのだろう。

メタノールは非常に発火しやすい。セシルはそのメタノールを含む、大量のホルマリンでアンデットモンスター達を焼き払おうというのだ。そして密閉空間とは言え、物質を燃やす働きのある酸素は存在する。後は火種だ。セシルは天井を見やる。広い天井に申し訳程度についている電球。光を放っている。それに電力を送る、むき出しの送電線。

これに暗黒剣を放ち、送電線を断つ。火花を散らしながらも、波打つ様に落ちゆく送電線。セシルはとっさに、無造作に放置された机に身を隠す。

刹那、大爆発が起こる。広い実験室を狭いと言わんばかりに瞬時に膨れあがり、モンスターを焼き払う炎。炎は酸素の助けで一層勢いを増し、扉を吹き飛ばす。扉の枷(かせ)がなくなった炎は廊下を、螺旋階段を、そして第一兵舎をなめる様に進む。第一兵舎も誘爆を起こし、郊外の一角が焼け野原と化す。

果たしてセシルは無事なのだろうか・・・?

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