第12話 援軍
3月18日 午前9時30分 プラボカ 第一兵舎



「ものすごい負荷だ・・・。」

今、セシルは第一兵舎地下につながる唯一の扉の前に立っている。暗黒騎士なら、いや人ならこの扉に何らかの力が働いている事が分かるだろう。

暗黒騎士なら尚更その力の大きさが把握出来る。ゴルベーザが侵入させまいと、この扉に負荷をかけたのだ。ならば、セシルはそれ以上の負荷を扉にかけ、先に進むほかない。

剣を抜き、暗黒闘志を剣の先に収束、そして突き立てる。
扉は崩れ落ち、地下への道が開けた。セシルはそのまま階段を下る。明かりも何もない、螺旋階段。どこか、そう、地獄へでも続いていそうな感じだ。先に行くほど、鼻を突く異臭が強くなり、先に行くほど妙な物音が聞こえる。セシルは1人急いていた。誰もセシルをせかしはしない。だが、彼は吸い寄せられる様に、階段を行く。

ようやくたどり着いた。左右には重厚なレンガの壁と、いくつかの鉄の扉。ここは政治犯、謀反者、凶悪犯など、表沙汰には出来ない罪で捕まった者達のためだけに作られた地下牢だ。その歴史は古く、ウォルス建国以来から存在したと言われる。

第一兵舎はただ多くの兵士をプラボカに置くためでなく、この地下牢の警備、そして存在を秘匿するために作られたのだ。今使われていないのは、地下牢唯一の出入り口がある地上の兵舎が老朽化しつつあるのと地下牢の必要性がなくなったからだ。ウォルスが平和になったとも言えるが、実はこれより数段上の規模の牢が、ウォルス城にある。城に民間人の出入りはほとんどない。防諜(ぼうちょう。秘密が漏れるのを防ぐこと。)上の理由からして、これは大きな利点だし、脱走も未然に防げる。城の直下に作られた牢から逃げようなどと、誰も考えない。もしそんな事をして捕まれば、既存の罪より遙かに大きな罪がやってくるか、即座に無惨な最期を迎えるだけだろうから。

その、かつてのウォルスの闇の部分をため込んだ迷宮をセシルは行く。

「ここで何をしていたんだ・・・?」

セシルは剣を抜いたまま、用心深く歩を進める。それは一流の戦士としての心構えからか、それとも自らの心の、ゴルベーザに対する不信感からか・・・?セシルは先程から聞こえる奇妙な物音の源を捜していた。

ゴルベーザがいるかも知れない。耳を澄まし周囲に注意し、進む。暗い地下牢の奧を目指し、ただ進んだ。その先を目指すほど、音が大きくなっている。

「これは・・・?」

一際大きい鉄の扉がセシルの前に姿を現す。耳を扉に当てると、確かに物音とそして、下劣な笑い声が聞こえた。

(ゴルベーザ?・・・違うな。)

向こうから聞こえてくるのは、か細く、ひしゃげた、しわがれた様な声だ。ゴルベーザではない。

セシルは再び剣に暗黒闘志を収束させ、一撃で叩ききり、更に扉を蹴倒し入る。

「むっ?!誰だお前は!」

そこには血まみれの白衣をまとって、充血した目をとがらせ光らせる、男の姿があった。

「ここで・・・、ここで何をしている!」

セシルは部屋を見渡し、怒りを通り越し殺意を抱いて詰問した。これまで捜していた兵士達が、その部屋にいた。が、人の形をしていなかった。それでもセシルが、部屋にいたのが失踪した兵士と分かったのは、身につけていた装備品が、バロン兵のそれだからだ。それにしても何だ、この惨状は?

目の前の男の人間性を、存在を、この部屋そのものの存在を疑いたくなる。無惨に解体された死体や、異形に変えられた兵士。そこに平然として立っている男。その姿、言動からかいま見る事が出来る異常さ。死の天使とでもいうべきか?

「お前は誰だ?!」

「フフフ、私はゴルベーザ様の配下にして天才科学者、ルゲイエじゃ!」

「ゴルベーザの手先か・・・。負傷兵をこんな風に変えたのも、お前か!?」

セシルの言葉にルゲイエは何がおかしいのか、ケタケタと笑いながら答える。

「何を言うか。死んだ兵士を蘇らせ、その上私は彼らに新たな力を授けたのだ。むしろ感謝の1つもして欲しいものだ。」

「お前は自分が何をしたのか分かっているのか?これは・・・。」

セシルの言葉はルゲイエに遮られた。

「これはこの上ない偉業なのだ!ゴルベーザ様の元で有能な兵士をつくりあげ、全世界を我が手中に・・・!ヒッヒッヒ、これ程素晴らしい事が他にあろうかっ??!」

そう語るルゲイエの目には、一点の曇りもない。自らの行為が絶対善と信じているとでも言うのか?

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