第10話 勝者と敗者
3月17日 午前12時13分 飛空挺陣地
「飛空挺、離陸準備完了!」
「主翼展開。機関、最大出力。1番艇から5番艇、離陸準備完了。兵員回収を終了。タラップ収容。」
「よし!速やかにこの空域を離脱する!プラボカへの進路を取れ。」
カインは速やかに指示を下し、飛空挺を撤退させる。これで負傷兵の安全は確保された。しかし時間稼ぎのため残った、ベイガン隊は熾烈な戦いを続けていた。援護の砲撃が出来る訳でもない。飛空挺に乗せてやれる訳でもない。セシルは神妙な面持ちで、窓から外の様子を見やった。飛空挺が飛び去ったのを確認したベイガンは、目前のカイエンと戦いながらも撤退のタイミングを伺っていた。しかし、そうなると、当然スキが生じる。
「どうした!気が散っている様だが?!」
カイエンが一閃。下から上へ一撃。ベイガンはあえて左腕をせり出す。一撃で腕は吹き飛び、肉が、骨が断たれる。動脈から鮮血が吹き出す。目くらましだ。ベイガンはこれを狙っていた。一気に後退する。信じられぬ脚力だ。ベイガンは一瞥もせずカイエンの前から姿を消した。カイエンは追わない。手練れは深追いしないのだ。
「目標は達成した!撤退するぞ!」
ベイガンは戦う友軍に撤退を知らせる。それをすぐに伝令が各部隊に伝達する。
「撤退だ!退くぞ!」
「おお!」
「逃がすか!」
「追え、一匹たりとも逃がすな!」
このときを待ちかまえていた様にバロン兵は撤退する。これをウォルス軍が見逃すだろうか?断じて否、である。
ファリスは全ウォルス軍の代弁者の様な戦い方をしていた。容赦がない。
「逃がすかよっ!」
ファリスが背をさらし逃がす敵を確実に仕留める。更に竜騎士から奪ったのだろう、右手のスピアを敵に投げる。まっすぐ、吸い寄せられる様にスピアは空中を行き、的である敵を仕留めた。その間も別の敵に接近し、新たな右手の武器、メイジマッシャーを巧みに操り敵を翻弄する。そのファリスを狙う狙撃手。この乱戦の中、銃は味方をも巻き込む可能性があったが、バロン軍が撤退し始めた事でその心配はなかった。
「!」
ファリスが気づき、とっさに地面に転がる。かすめる銃弾。失敗に唸る狙撃手。
「もっと上手く狙いな!」
体勢を立て直したファリスは、左手のダガーを投げつける。弧を描き突き進むダガー。避ける間もない。ダガーは狙撃手の肩に食い込み、狙撃手は二度と動かなくなった。
「抜け目ない奴らだ・・・!」
さすが、殿(しんがり。戦闘において、撤退する部隊の最後尾を指す。退却時に敵の猛追撃を受けるため、最も危険な役割とされている。)として残るだけの事はある。
周りを見れば、百戦錬磨のタイクーン兵らや、傭兵らも大変苦戦している。指揮官であるベイガンを逃がすため、バロン兵らは奮戦していたのだ。
「このっ!」
人を斬る事にためらうレナだが、着実に敵を倒してゆく。目の前に立ちはだかるは、暗黒騎士。剛胆な騎士の一撃をかがんで避けると、懐に飛び込み、アイアンソードを突き立てる。
「くっ・・・!」
呻く騎士。だが、頑強な鎧は至近距離からの突きをも防ぐ。
「今度こそ・・・!」
レナがアイアンソードを振ろうとする。が、剣を振るうには間合いが不十分だ。騎士は暗黒の盾をレナの顔面めがけて叩きつけようとする。避けるにも間合いが足りぬレナは死を覚悟した。
「くらえ!」
間一髪、バッツが全速力で駆け、暗黒騎士を横から一撃で斬り伏せた。
「バッツ!」
歓喜の声をあげるレナ。
そして、奮闘していたファリスらにも助けが届いた。戦場を蹂躙していた赤魔道騎士らが未だ退かぬバロン軍を倒そうと、応援に駆けつけたのだ。剣が、魔法がバロン兵を襲う。赤魔道騎士は大分欠員が生じているが、残りの者の士気は高い。そこに高い実力が結びつけば、大きな戦果が挙がる。これに促される様に、消沈しかけた兵士達の士気も隆盛した。
「応援か、ありがたい!」
「一気に片づけるぞ!!」
新手に動揺するバロン軍。新手に闘志をかき立てられるウォルス軍。
「ワシも負けてはあられぬ!!」
ガラフとて負けてはいない。バッツら4人の中で最高齢であるが、最も卓越した技術を有するガラフも、連戦でやや疲れていたが、ここぞとばかりに力を振り絞り、敵に力をぶつける。逃げる敵を斬り、更に斬り、ちぎっては投げていた。バロン軍は、大部分が撤退している事も含め、少なからず被害が出たため、もはや反撃しない。飛空挺の撤退と、ベイガンの戦線離脱という目標が達成したからでもあるが。ウォルス軍が退く敵を追うが、深追いはしない。彼らの目的も果たせたのだ。
飛空挺は既になく、陣地はもぬけの殻。この戦いはウォルス軍の大勝と言えよう。背後の安全は固めた。明日にはいよいよウォルス全土から敵を一掃出来るだろう。そんな機運が高まった。