第10話 勝者と敗者
3月17日 午前12時13分 飛空挺陣地
昨日から追撃の任に当たり、更に偵察任務を仰せつかったシャドウは、疲れなど微塵も感じさせぬ戦いぶりで、敵を圧倒していた。むろん、インターセプターと共に、である。疲れを知らないのか?本当に人間か?と疑いたくなる戦い様だ。その実力は、両軍の中でも五指に入ろう。
「これを喰らえ!」
不意に、暗黒騎士が彼の視界に飛び込んできた。剣に集中させた暗黒闘志を更に高め、シャドウに放った。左右にはバロン陸兵。アイアンソードをかざし、いつでもシャドウを斬り捨てられそうだ。普通はこの状況を絶体絶命と言う。
が、シャドウにはそれが通じない。右の敵をインターセプターが襲うや、シャドウは左の敵に峰打ちを喰らわせ失神させ、迫る暗黒の一撃に対する盾代わりにしたのだ。
「があぁ!」
失神していたが、暗黒剣を喰らうと意識が戻った。が、次の瞬間には砕かれた鎧が胴を引き裂く激痛と、骨がイカれる鈍痛とに襲われた。
「な、なに!」
暗黒騎士は顔を青くした。そして、頬を伝う一筋の冷たい汗。これまで死線をかいくぐってきた屈強なるバロン暗黒騎士が心の底から震撼した。戦慄を覚えた。
だがシャドウは止まらない。物を扱う様に、盾代わりとなった人間であったろう肉塊を投げ捨て手だった部位がいまだ無念そうに力強く握るアイアンソードを全力で暗黒騎士に投げつけた。
騎士は戦慄のあまり動けない。
アイアンソードは鮮やかな弧を描いて騎士の体をすり抜けるや、赤い血をまとって一層鮮やかに弧を描き、そして地に刺さる。
同時に騎士も事切れた。
「暗黒騎士とはこの程度のものなのか?」
インターセプターも敵を片づけたところであった。
カイエンもやはり戦場で暴れ出した。指揮官である彼だがウォルス軍勢隊が攻勢に出ている今、指揮官が、いようがいまいが関係なかった。全体が攻勢に出ているという事は、優勢である証拠だ。それでも念のため副官を置いてきたが、副官の仕事はなさそうである。
「道をあけよ!」
駆けながら風斬りの刃の、切っ先から鍔元(つばもと。刀の基部。)に至る全能力を解放。不可視のハズの風がその形を表し、暗黒騎士だろうが、竜騎士だろうがお構いなく斬ってゆく。一筋の道が瞬く間にできあがった。
また別の敵が現れた。竜騎士であった。
「いざ尋常に、勝負!」
「望むところ・・・!」
竜騎士はスピアを片手で持ち、ひたすら鋭い突きでカイエンで迫った。その動きは速い。そして刀にはないリーチが槍にはある。しかし、この程度で易々と敗れるカイエンではない。敵が突きを放った瞬間、懐に入り込み、必殺剣・牙で敵を葬る。竜騎士を葬り、次なる獲物を探していた時だ。不意に視界に入り込んだ敵にカイエンは、驚愕した。
ミスリルの胸当てにミスリルの篭手、手にはミスリルソード。バロン近衛兵の証である青地に黒十字のマント。
ベイガンである。昨日の会戦で、ベイガンはカイエンとの戦いの末、敗れ、命を落としたはず。
にもかかわらず、だ。にもかかわらず生きた姿で部隊を指揮し、戦っている。異常の一言に尽きよう。カイエンの行動はそれは素早い。自分が、かまいたちで作った道を行き、その先のベイガンを目指す。ベイガンもカイエンの存在に気づき、ミスリルソードをカイエンに向け構えた。お互い、一定の距離を取ったまま動かない。
「お主、何故生きている?」
「ふふふ、何故でしょうねぇ。簡単に言えば、私はあの程度では死なない、と言う事ですよ。」
「では今度こそはお主のその首、取らせて貰う!」
カイエンは全速力で接近。構えるベイガン。そこにベイガンの意表を突く、かまいたち。
(!!)
不可視の風が鋭利なその姿を見せ、地面を裂きながら突進してくる。剣で受け止められはしない。ミスリルの防具でも防げはしない。では、避けるしかない。左に転がり回避し、即座に態勢を立て直す。眼前には既にカイエンの姿が。残像を生み、風斬りの刃が、ミスリルソードとぶつかり合い火花を散らす。風斬りの刃を前に押しだしベイガンを遠ざけさせ、必殺剣を見舞う。
「喰らえ!」
槍の名手の必殺の突きをも凌ぐ、必殺剣・牙。今度こそベイガンに避ける余裕はない。体を守ろうと、反射的に左腕をせり出す。ミスリルの篭手を貫き腕を貫き、鮮血を散らす。が、ベイガンは少々顔をしかめるだけである。腕に穴が開いたのだ。激痛を通り越し、気を失っても不思議ではない。確実に仕留めようとカイエンは、そのまま強烈な蹴りをかました。踏ん張りも効かない。ひざまずく様な不安定な姿勢。
「ふんっ!」
「!」
一閃。妖刀がベイガンの右肩から入り、ひとかけらの容赦もなくはしり、体を両断していた。カイエンの底知れぬ力量と、妖刀の力が組み合わさった結果だ。
「今度こそ、仕留めたか・・・!」
未だ戦闘は続いている。周囲に気を配りながらも、ベイガンに対しても警戒を怠らない。まだ息があるのか、時折脈打つ様に体が動くが、それだけである。
「悪く思うでないぞ。」
念のため、首を断とうと刀を握り直したその時だ。まるで蛇の様になまめかしい動きを取ったかと思うと、カイエンから離れ、剣を持ち直し、血まみれながらも立っていたのだ。
「・・・ずいぶんと風変わりな体であるな。」
「フフフ・・・。ばれてしまっては仕方がありませんね。」
不敵な笑みを浮かべ、両手で剣を構えるベイガン。左腕も短時間で完治してしまった。掴む投げる振る。腕の機能全て取り戻して。
「これで終わりではないのでしょう?」
挑戦的な言葉がカイエンに浴びせられる。
「ふん、無論だ!ゆくぞっ!!」
侍と騎士の戦いは、第二幕に突入した。