第10話 勝者と敗者

3月17日 午前12時13分 飛空挺陣地

陣地は、けたたましい警報の音と、やまぬ砲声にさらされていた。一応敵襲に備えてはいたものの、負傷兵の看護でほとんどの兵が心身共に疲弊しており、その動きはお世辞にも迅速とは言えなかった。重砲の存在に気づいたのも、砲撃が始まってからだ。

「飛空挺全機離陸準備!機関が温まるまでの時間は?!」

「あと11、いや10分!」

「急げよ!」

カインが放送器具に大声で告げる。セシルは負傷兵の収容作業にあたっており、ここにはいない。全ての負傷兵を収容するには、武器弾薬や食料を捨てねばなるまい。セシルはこれらを敵に使われぬ様、焼却処分させている真っ最中だ。だがしかし、敵に立ち向かう部隊には、指揮官がいない。指揮官は皆、各々の仕事で手が回らない。
カインも例外ではない。

「カイン殿。」

ベイガンである。

「私にお任せを。幸い我が隊の脱出作業は済んでおります。」

「そうか、では迎撃部隊が控えている。今すぐにでも行ってくれ。」

「承知致しました。」

(化け物の戦いぶり、とくとご覧下さい。)

心中でベイガンは、そう付け加えた。



「角度修正!目標敵旗艦!!ただし、至近弾にとどめよ!!・・・・・・・撃て!!!」

砲兵隊隊長の怒号を、砲声がかき消し轟く。指揮者の様に剣をタクトに似せて振るう隊長と、それにあわせて規則正しく弾の装填や砲の修正を行い、そして放たれる砲弾と砲声は、考えようによってはオーケストラの様ではある。そのオーケストラの観客たるは、ベイガン率いる陸兵団だ。ただ彼らは、ご静聴される意志はお持ち合わせにならぬ様だ。

ベイガンは砲撃に臆することなく突進を駆ける。ベイガンは重砲が、自分たちに向けて放たれる事はないと踏んでいた。巨大な大砲の向きを変えるのには、それは大変な手間がかかる。しかも大砲というのは、的が近ければよいというものではない。目標に一度極度に接近されると、もはや大砲は無用の長物となり果てる。味方が迎撃しているところに撃てば、敵はもちろんだが味方もただでは済まない。戦っている味方の背後から砲撃するのだから、砲撃に対して背をさらしている味方の方に、被害がより多く出る。ウォルス軍も大砲の弱点を知っているから、すぐさま前面に展開し、重砲を守る様な陣形ができあがった。

ウォルス軍はあえて前進せず敵を待ちかまえる。

両軍がぶつかり合い、戦闘が開始される。3600人のウォルス軍と、1000人のバロン軍とでは兵力のひらきがある。
数で優位に立つウォルス軍が優勢である・・・ハズだった。しかし、意外と苦戦を強いられているのだ。実はバロン軍の中には暗黒騎士や竜騎士が意外と多く編入されており、一騎当千の力を誇る彼らにしてやられているのだ。
編成も実に巧妙と言える。

1人の暗黒騎士や竜騎士に、2人から3人の陸兵を伴わせているのだ。暗黒騎士などが敵を正面から攻撃している間に、陸兵に敵の背を突かせるのだ。いわば特別な技術を持ち合わせていない一般兵にとって、強大な暗黒の力を行使しうる騎士や竜の名を冠した槍の名手は、その存在だけで士気を大いに奮い立たせる。しかも、ガストラ帝国軍の魔導アーマーや魔導士、ソルジャー、フィガロ軍のチョコボ騎兵、ウォルス軍の赤魔道騎士など、世界の名だたる精鋭と比肩しうる実力を有する兵士と連携をとる事で、陸兵達の士気はこれまでになく高い。

しかし、いつまでも押されて黙っているウォルス軍ではないし、精鋭という事なら赤魔道騎士団がいる。
傭兵部隊の存在も忘れてはならぬ。双方綺麗な横一列の陣形で戦っていたがそれも僅かな間の事で、すぐさま昨日の様な両軍入り乱れた乱戦が始まる。今回赤魔道騎士団はチョコボに騎乗していない。昨日の様におとりとして動く訳でなく、歩兵の一員として動くからだ。騎兵が先行しすぎては、袋叩きにされるがオチだ。

「行け!」

今や赤魔道騎士団の一部隊を預かっているバッツは、他と同じくチョコボには乗らず、傭兵部隊と行動を共にし、来る敵を皆、斬り捨ててゆく。先の戦いで赤魔道騎士団、傭兵部隊共に多く欠員が出ており、それを埋めるため共に動いている。これがバロン軍にはこの上なく厄介であった。特殊な編成で数の上での不利を補うバロン軍とは正反対に、
ウォルス軍は、精鋭を一束にして前線で暴れ回させている。どんどんバロン兵を討ち取り、蹂躙してゆく。


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